第六章 十一月 その24

合宿二日目。


明日KF高校組は移動日のため、実質これが最終日となる。


今日は午前中にミックスダブルスの総当たり戦を行い、午後はチーム戦を時間の許す限り行うことになる。


ただし、時間の関係でミックスダブルスは二エンドのみ。


それでもかなりハードな一日となる。


総当たりといっても、さすがに上級者と初心者では分かれるのだが、各クラスの一位は最後に決勝戦として対戦をすることになる。


「わへい、決勝で戦いましょう」


リューリが手を差し出しながら僕に微笑みかける。


「もちろん。決勝戦で」


リューリと握手する。


…自信はないけど、とは言わない。


リューリが対戦を望むなら、僕はそれに応えるのみ。


「決勝戦で圧倒的実力差を見せてあげるから勝ち進んできたまえ」


夏彦先輩が手を差し出す。


「そんな訳で秋さん。よろしく」


「あはは。やりますよぅ」


夏彦先輩をスルーして僕は秋さんに向き合う。


「華麗に僕をスルーするのは止めたまえ」


差し出した手のやり場に困り、夏彦先輩はリューリに向き合う。


「それじゃあ、ね」


リューリは隣のシートに歩き去る。


「ははは、では決勝戦でな」


夏彦先輩は手を出したまま去って行った。




最初の試合は松山、新田ペア。


「どどーん」


口で言いながら松山が腕組みをしている。


「その“どどーん”ってのはなんだ?」


「マンガ的な表現」


「うん。なるほど分からん。始めようか。秋さん、僕がじゃんけんするね」


「お願いしますぅ」


「行くぞ松山」


「勝負だ森島」


じゃんけんをするだけなのだが、松山は正拳突きの構えをする。


あ…これは…一瞬で松山が何を出すか閃く僕。


「「じゃんけんポイッ」」


松山は正拳突きのまま、グーを出す。


僕はそれを見越してパーを出す。


「…負けたぁ!」


「…僕の作戦勝ちだな。パワープレーで行きます。良いかな?秋さん」


「どうぞ。どうぞ!」


秋さんが両手を前に出し頭を下げている。


順番を譲るサラリーマンみたいだな。


※パワープレー


各チームが一試合で一度選択出来る。


最初に置かれているガードをハウスの中心ではなく、左右に寄せて置くことが出来る=後攻が有利になる。


「初手パワープレーとはやるな森島!」


松山が無駄に指を突き立てながら叫ぶ。


「いや、第二エンドまでだから、出し惜しみはしないだろ」


一投目と五投目を僕が担当し、二投~四投を秋さんが担当する。


新田さんのキューを使った投球はウェイトはないな精度が高く、僕達は追い込まれる。


結局一点スチールされ、次のエンドを迎える。


次のエンドでもやはり同じ状況になる。


そして僕のラストロック。


このままではやはり一点スチールされ、僕達の負けとなる。


松山達のストーンを一個出し、シューターが残れば僕達の一点で試合としては同点。


昨日の松山がやったように手前のガードを飛ばし相手のストーンを二つ出し、シューターを残せば二点で逆転。


負けたくない。


リューリ達と戦いたい。


負けないためには同点でも良い。


難易度は同点を目指すのが低く、無難。


でも…。


「つまらない引き分けより、面白い負けが次につながる」


野山先輩に、松山に言われた事を呟く。


「秋さん!ガードのここにMAXパワーで当てるよ」


「任せますよぅ。やっちゃえ!」


パワーショットは…足で投げる!


僕は思い切りハックを蹴る。


…いけ!


僕のリリースしたストーンはガードに当たり、ガードストーンは中の松山達のストーンを二つ出し、その場に残る。


挑戦が、勝利を引き寄せた。


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