第六章 十一月 その22

その夜は女性陣はそのまま女子会を行い、男性陣はゲームをして盛り上がった。

牧村先生も宿泊しているため、遅くまで遊ぶという事は出来ないが、充実した時間だった。

「さ、明日もあるから寝ましょう」

牧村先生が先生らしく、皆を促す。

リューリ、野山先輩、部長が三人部屋、旭先輩、友利が二人部屋と分かれ各自が引き上げていく。

「お休みなさい」

まだシャンプーの香りがする、ルームウェア姿のリューリにそう言われ、思わず抱き締めたくなる衝動を抑える。

リューリのルームウェアはゆったりとした紺色の物で、大人っぽい彼女によく似合っていた。

…自宅だとこんな格好してるんだな…。

「鼻の下伸びまくってるぞ」

野山先輩にからかわれる。

「伸びてませんよ」

僕は慌てて顔を引き締める。

野山先輩はピンク色の派手なルームウェアで頭にはキャスケットの代わりに…。

「それはナイトキャップ…ですか」

今どき?

ナイトキャップ!?

どこで手に入るんだろう。

こんな格好だと、自宅ではぬいぐるみ…大きなくまさんかとか…抱いて寝てそう。

「私の家にくまのぬいぐるみはないぞ」

…読まれた。

「わへい、いつもみたいにお休みなさいのキス、する?」

「してないてでしょ。というか、いつも一緒に寝てるみたいな言い方は止めよう」

ついでに…リューリにからかわれた。

しかし、野山先輩のパジャマ姿…。

なんだか黒崎に悪いことをしている気分だ。

「友利ー!部屋行こーぜ」

旭先輩はハーフパンツ姿…。

寒くないのかな。

「旭先輩、ちなみにいびきはかきますか?」

「おう、どうして分かった!?」

友利がげんなりしていた。

旭先輩のいびき…うるさそうだな。


僕は松山と部屋に向かう。

「灯り、消すぞ?」

「いいよ」

僕は部屋の灯りを消す。

僕は興奮しているのか目が冴えてしまい、なかなか眠れなかった。

松山もきっとそうなのだろう。

上のベッドなら寝返りをする音が聞こえる。

「眠れないのか」

上のベッドに向かって話し掛けてみる。

「なんだか興奮しちゃってな。…楽しかったよ。今日は」

「そいつぁ、良かった」

「もっと…色々詮索されたり、邪険にされるかと思ってた。、な」

「そっか」

…沈黙。

「松山、僕は思うんだが…」

「うん?」

一言ずつ、言葉を選びながら僕は話す。

「えっと…天動説って知ってるだろ?」

「よくわからないけど昔の考え方で空が動いてるっていうアレか?」

「そう。大抵昔の人は馬鹿だな、みたいに言われるけど」

僕は言葉を区切る。

「太陽だって天の川銀河を中心に回ってるそうだ」

「おう?」

何を言いたいのか分かり兼ねたような松山の返事。

「僕らのいる天の川銀河はアンドロメダ銀河に近付いているそうな。つまり銀河すら動いているってことだな」

「…おう」

「その銀河をまとめた銀河団も宇宙の中心からは遠ざかっているそうな」

「…うん」

「なら、さ。僕は全て分かった上で天動説でも良いんじゃないかと思う。そんなスケールの大きな事は考えられないだろ。だから地球、自分を中心に世界が回っている…で良いんじゃないか」

「…なるほどな」

言いたい事が伝わったみたいだった。

「普通ってなんだろ?回りと同じが良いって事なら、生物は進化してないだろ」

「…俺は特異点という事か…」

…お前が直すとしたらその中二病だけどな、とはさすがに言えない。

「喋りすぎた。寝よう」

「森島、ありがと、な」

松山も、新田さんも特別な存在じゃない。

回りと少し違うだけでそれが劣っているという事ではない。

身長が高い、低い…その程度の事なんだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る