第六章 十一月 その18
ある程度まで食事が進んだ後。
僕らは学校から借りてきたプロジェクターとパソコンをつなぎ、カーリングの試合を上映した。
それは過去の女子のオリンピック代表戦で北海道のチームと長野県のチームが対戦した試合の映像。
もちろん結果は皆分かっているのだが、それでも食堂内は盛り上った。
「なんであのウィックでハウスの中に入らないんだ!?」
「さすが驚異のスイープ力!」
「あれ届くんだ!?」
「あのコーチならこの盤面は見えてたんだろ」
「どっちのチームもあのコーチの手の平の上だろ」
「このガードなんの意味?」
「このシートは向かって右側が曲がらないから…」
皆が皆、次のショットはどうなるか?
わいわい騒ぎながら見ている。
そしてリリースしたストーンがガードをかわすとどよめきが起こり、見事なテイクショットには大喝采。
一喜一憂していた。
「なかなか良い企画だっただろう?」
今度はカウンター席に野山先輩。
この上映は野山先輩の提案で行われたものだった。
「確かに良い企画ですね。こんなに盛り上がるとは」
「カーリングはこうやって皆でああでもない、こうでもないって言いながら見るのが面白いんだよ。皆で将棋を見ている感覚だな」
…僕は将棋を皆で見たことがないので分からないが…。
「わへいはカーリングの試合見たことがないか?」
「僕らのレベルくらいの試合は見たことありますけど」
「日本選手権とか世界選手権クラスだよ」
「それはないですね」
「12月に世界選手権がある。ボランティアで私らは出るけど参加してみるか」
…カーリングの試合のボランティア。
そういうのもあるのか。
「…興味あります。どういう事やるんですか?」
「客席の案内やらチケットのモギリとか。前は自由席だったのがここ数年はチケット制になったからな。弁当もでるぞ」
「まぁ弁当はいいですけど。やりますよ。その時は誘って下さい」
「そうする。ずっと試合見てるわけには行かないけど、一度こういう試合を見るといい」
「…はい。なんだか先輩真面目ですね。どうしました」
「失敬な。私は普段から真面目だぞ。でも、こういうのいいなと思ってな」
野山先輩の視線の先には映像を見て盛り上がる皆。
松山や新田さんも二人で仲良く見ている。
性別、身体的特徴、年齢、そんなものは関係ない。
一人一人がカーリングを愛するカーラーとして。
「お前の事だ。センチメンタルに浸ってるだろ」
「野山先輩こそ」
「私もお邪魔していいかしら」
「リューリ、もちろん」
リューリもカウンター席に座る。
「おお、おお、ワンコがご主人様見付けたみたいだぞ。わへいに尻尾がついてたら間違いなく千切れんばかりに振ってるな」
野山先輩がニマニマしながら言う。
「わへいに尻尾…いいわね」
「二人とも止めて下さいよ。リューリ、何飲む」
「あなたの作ったカフェオレ」
「おっとそう来たか。おっけ、ちょっと待ってね」
僕はリューリのためにコーヒー豆を挽き始めた。
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