第六章 十一月 その17
「それでは、本合宿を祝しまして、っっっ乾杯っ!」
「「「乾杯(かんぱ~い)!!」」」
学園の部長が乾杯の音頭を取り、全員がそれに続く。
練習の後、それぞれが一度自宅や宿に戻り、その後僕の家に集合していた。
三つの高校のカーリング部全員ではないが、ほとんどのメンバーが集まっていた。
テーブルには所狭しと料理が並ぶ。
飲み物はもちろんソフトドリンクだが、皆が皆、練習で打ち解けていたため、盛り上がっていた。
僕は空いた皿を下げたり、洗い物をしたりとキッチンで動いている。
うちの部長や女子有志も手伝ってくれていた。
「お前の学校のチーム、面白いな!」
カウンター越しに松山が話し掛けてくる。
松葉杖の新田さんも一緒だ。
松山が自然な動作で新田さんを座らせる。
飲み屋…はもちろん行ったことはないが、きっと店のマスターというのはこんな感じだろう。
松山らえらく上機嫌だが、ソフトドリンクだよな?
「うん、まぁごく一部、ね」
僕はお皿を拭きながら話を聞く。
「明日はミックスダブルスの総当たりやるんだろ?楽しみだな」
松山がグラスを差し出してくる。
僕はそこにへ炭酸ジュースを注ぐ。
「何だか似合ってるな、森島」
松山がからかう。
「松山さん、隣いいですか」
「女の子、大歓迎」
「ありがと、わへいさん、私にも下さいな」
カウンターに秋さんが座る。
「炭酸でいい?」
「はい」
秋さんのグラスに炭酸ジュースを注ぎ、僕は回りを見渡す。
合計で三十名ほど。
この食堂によく入ったものだと思う。
「わへいさんの家って素敵ですね。薪ストーブ、いい雰囲気ですね」
「薪は今年の分で終わってしまうから来年の分準備しなきゃいけないんだけどね。薪を買っていたら高くてやってけない。薪だって一年は乾かす必要があるみたいだし、意外と大変なんだ」
「そうなんですねー」
秋さんはふむふむとメモでも取りそうな勢いで聞いている。
僕は話ながら目の端でリューリの姿を見付ける。
KF高校の女子達とカーリングの話で盛り上がっているみたいだ。
「…わへいさん、恋する乙女の目をしてますよぅ」
秋さんがニマニマしながらこちらを見ている。
リューリを見ていたのが分かったみたいだ。
「…乙女ではないよ」
「いいえ、乙女です。いいなぁ、私も彼氏欲しいなぁ」
秋さんが溜め息をつく。
「なに?森島の片想いか?」
「違いますよぅ。わへいさんとリューリさん…あそこにいる髪の長い人…付き合ってるんですよぅ」
「おお!すげー美人じゃないか。ちょっと目付きが怖いけど。睨まれたらぞくぞくきちまいそうだな?」
「…同意を求められても困る」
「いつもはミックスダブルスでペアなんですよ?今日は私でしたけど」
「ちらっと見てたけど上手かったな、彼女」
「そうなんだよね」
自然と僕も溜め息が出てしまう。
「ね、ね、松山さん、すごいんですよ。わへいさん」
秋さんが手をひらひらさせて松山を招く。
松山も釣られて身を乗り出す。
「リューリさんて元々付き合ってた人がいたんですけど。その人、すごい女ったらしだったみたいで。カーリング場で元カレがリューリさんに絡んできて。わへいさんがカーリングブラシでぼこぼこにして追い返したんですよぅ!」
「見掛けによらず、熱血だな!?森島!」
「いや、してないよ!?どこからそんな話が出てるの?」
「わへいさん、うちらの間で有名ですよぅ。走り出す車からリューリさんを奪い返したとか。それでリューリさんがわへいさんにめろめろになっちゃったとか」
「…反論する気も起きないんだけど」
めろめろのリューリとかどんなだか。
…まぁ、一部外れてはいないかもしれない。
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