第六章 十一月 その15
その後も旭先輩チームと松山チームの試合は終始うるさく、しかし面白く進んだ。
僕も試合を見ながら上級者シートの様子を伺う。
リューリは私立学園二年生男子と一緒に練習試合をしていた。
悔しいけれど、その二年生男子は上手だった。
仕方のない事だが、時折ハウスを見るために二人の距離はぐっと近くなる。
リューリが中腰でハウスの中を確認する。
その後ろから二年生の男子が覆い被さるようにしてハウスを覗き込む。
…そんなに近付くなよ…!
その様子をハラハラしながら見てしまう。
すると、リューリがこちらに気付き、手をひらひら振ってくれる。
“…心配するんじゃないわ”
そう聞こえた気がする。
僕は手は振らず一つ頷いてみせる。
それからリューリは僕を指差した後で、自分の首筋を人差し指でつついた。
“あなたの首には私がつけた所有権があるのよ”
たぶんそんなところだろう。
僕はこくこくと頷く。
「…リューリ先輩の事、気になっちゃう?」
横から秋さんの声。
大きなくりんくりんした瞳でこちらを見ている。
…しまった。
試合にそっぽを向いて、リューリ達を凝視している自分がいる。
「気にならないと言えば、嘘になるかな」
「わへいさん、素直じゃないなぁ。はっきり言ってごらん?」
「…気になります。すごく」
「うんうん。正直でよろしい。普段ペアを組んでる恋人が、別の男と組んで試合している様子に嫉妬する。…絵になってますよぅ。私には堪らないシチュエーションですね」
「うん、ちょっと黙ろうか」
「あ、わへいさん結構酷い」
「段々君の扱いがわかってきたよ」
「それってぞんざいに扱うってことですね。断固抗議します。…やっぱり普段ペア組んでる彼女が…他の男と組んだら嫌ですか?」
「うん。それもあるけど。…でも、最近足を引っ張ってばかりだったから。彼女の実力を出すためには、これで良いんじゃないかって思う。あ、君が下手とか、技術どうこう言ってるんじゃないんだ。僕だって初心者だから。何でもそうでしょう?同じくらいの実力同志だと切磋琢磨できるし」
「私のフォローを忘れない辺りポイント高いです。わへいさん、優しいですね。リューリ先輩は幸せ者だぁ」
しばらく二人で上級者シートを見いる。
「あの先輩なんて名前?」
「ああ、リューリさんと組んでる…。
「それは…酷いあだ名だ」
でも夏彦先輩のカーリング技術はリューリに負けずとも劣らない。
ミックスダブルスでは個人の技量がもろに試合結果に直結する。
そして往々にしてドローショットの精度が非常に重要となる。
僕はただでさえドローショットの精度が悪い。
ドローショットを正確に決める為にはデリバリーはもちろんだが、スキップ、スイーパーのウェイトジャッジも重要な要素となる。
ミックスダブルスでは自分でデリバリーした上で、ウェイトを見ながら自分でスイープしなければならない。
正確なデリバリーすら覚束無い僕には難しい注文なのだった。
あの先輩のようになるまで、どれくらい時間が掛かるだろうか。
その間ずっとリューリに迷惑を掛け続けるのか。
僕は再び
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