第六章 十一月 その14

松山チームとの練習試合、第二エンド。


僕らのチームは第一エンドで一点を取らされ、第二エンドでは先攻だった。


ミックスダブルスでは最初からハウスの中にストーンがあるため自然ハウスの中にはストーンが貯まる展開となる。


今はハウスの中でNo.1は松山達のストーン。


その前方に僕らのストーンが三つ貯まっている。


後攻の松山達としてはハウスの中を綺麗にしておきたいところだろう。


「森島、俺のパワーショットを見せてやるよ」


松山が不敵な笑みを浮かべて言った。


松山の心は男だと分かっていても、一瞬ドキリとする程、近い距離。


本人の心が男であっても、身体的には女性なのだから仕方がない。


見るからに意志の強そうな眉毛と強い目力。


ひょっとして、コイツは結構モテるのではないだろうかと考える。


…その場合、男女のどちらにモテるのだろう?


「佳乃!手前のガードから飛ばすぞ」


「やっぱりやるの?角度間違えたら、うちらのNo.1が出ちゃうよ?」


「このままじゃ上手くいっても同点だろ?そんなつまらない事より大失敗するのが面白いだろ」


「京ちゃんの好きにしていいよ。言っても聞かないし」


「サンキュな。愛してるぞ」


「止めてよ。恥ずかしい」


…あれ、この二人ひょっとして?


そんな事が頭をよぎる。


「見てろよ、森島。パワーショットは腕で投げるんじゃない」


すうっと右足を引く。


松山がデリバリーのモーションに入る。


「…足で投げるんだ」


速いウェイト。


それでも松山のフォームにブレはない。


下半身が余程安定しているのだろう。


「真っ直ぐ当たる!不味いかも!?」


ハウス側で新田さんが叫ぶ。


「…あ」


松山のリリースしたストーンは手間のガードに当たり真っ直ぐハウス内に飛ばすが…。


手間の僕らのストーンに当たりそれが真後ろの松山達のNo.1ストーンのみ弾き出す。


…つまり、大失敗。


「やっっちまったぁぁぁ!」


大騒ぎの松山。


新田さんはやれやれといった様子。


大失敗しても、楽しそうだった。


結局松山チームがなんとか一点を返し同点で終わったのだった。




「次は俺達と勝負だ!キョウ!」


無駄に松山を指差し旭先輩が叫ぶ。


「望むところだぜ」


それに対しやはり指差しで返す松山。


「俺のカーラちからを見せてやる」


…なんですか、カーラちからって。


ペアの部長や新田さんは苦笑い。


…この二人旭先輩と松山は気が合うんじゃないかな。




試合が進み、さっきの試合と同じ状況。


旭先輩の投球。


おそらく旭先輩もガードを飛ばそうという考えだろう。


旭先輩がハックの後ろに立つ。


「キョウ、さっきのパワーショットは見事だったな」


旭先輩が腕組みしながら言う。


…失敗してましたけど?


おそらく秋さんや部長、新田さんも心の中で突っ込んだに違いない。


「足で投げるというのは正しい。だが、お前には致命的に足りていないものがあった。だから失敗した」


「何ぃっ!?」


…現実で“何ぃっ”て叫ぶ奴、初めて見た。


「お前は頭の中でラスボスとのBGMを流したのか?」


「…ま、まさか!?」


…現実で“ま、まさか”って汗かく奴、初めて(略)


部長も新田さんもすでに二人を気にせず二人で話している。


「見ろ、ハックの先をお前には向こうに何が見えた?」


旭先輩がカーリングブラシでハウスの向こうを指す。


「ああ!あれは!?」


…もちろんハウスしか見えないのだが。


「このハックはカタパルトだ。このカタパルトデッキの向こうに宇宙そらが見えるか」


…たまに僕も旭先輩のノリに付き合うことがあるけど、これからは止めておこう。


恥ずかしくなってきた。


「見える!俺にも見える!」


盛り上がる松山。


「テッテーテッテー、テテレー、テッテー♪」


旭先輩がアニメのBGMを口ずさむ。


「ここで俺が言う言葉はただ一つ!!」


旭先輩がデリバリーのモーションに入る。


「アキラ、いきまーす!」


…うん、言うと思った。


そして壮絶に旭先輩は体制を崩しガードすら飛ばせずに終わった。




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