第六章 十一月 その13
僕は秋さんとペアを組み、他のペアとの練習を行う。
初心者シートには旭先輩と部長のペアもいた。
「旭先輩は初心者扱いなんですか?」
「
「
部長の突っ込みが入る。
部長が初心者こっちにいていいのだろうか?
「森島!俺達のチームとやろうぜ」
松山が声を掛けてくる。
「僕は良いけど秋さん、いいかな?」
「良いですよぅ。私、実はミックスダブルスって試合の経験ないんです。わへいさん、頼みますね」
「…僕もそんなに経験ないけどね?」
ミックスダブルスではあらかじめハウスの中と外にストーンが置いた状態で試合が始まる。
後攻チームのストーンはハウス内に。
先攻チームのストーンはハウスの外で後攻チームストーンの前にそれぞれ置かれる。
そして各チームのストーンの数は六投。
最初に一つずつ置かれているので実質五投となる。
ミックスダブルスでは男女どちらかが二投、そしてもう一人が三投を投げる。
二投の選手は最初、そして最後に投げ、三投の選手はその間で三投連続して投げるという具合だ。
じゃんけんの結果、松山、新田チームが先攻、僕らが後攻となる。
「練習試合は二ゲームだけね」
部長の声。
「佳乃、フリーズさせるぞ」
新田さんが車椅子に乗ったままハックの付近に来る。
松山は反対のハウス側から新田さんに指示を出している。
「やってみる。曲がり方見ててね」
カーリングは車椅子でも可能なスポーツだ。
車椅子や足腰が悪い選手の場合キューと呼ばれる長いスティックを使う。
キューの先端にはストーンのを引っ掛けるフックが付いていてそれでストーンをリリースする。
車椅子はそのままではリリースの際に滑ってしまうので部長が補助に入り支えている。
キューでリリースされたストーンはスイープはしない。
だから松山もハウスで見ているだけとなる。
新田さんのリリースしたストーンは手前のガードに近付いていき…。
「をを!!越えるかー!?」
秋さんが叫ぶ。
ガードを越えるが、ハウスまでは届かずに止まってしまう。
「惜しい!」
思わず僕も叫ぶ。
「おいおい、うちらは敵チームだぞ?応援してる場合か?」
「ついつい、ね」
秋さんがえへへ、と笑いながら言う。
次は秋さんの番。
「ウィック(ガードストーンに当ててずらすショット)いく?」
「
「なら中に貯めていくか」
「出来るかなぁ。やってみる」
自信なさげに言いながらリリースする。
「おお!弱すぎた!?」
秋さんがリリースした瞬間に叫ぶ。
僕は彼女の側で待機し、リリースされたストーンに付いていく。
「これはイエスだ!」
僕も全力でスイープする。
「頑張って!わへいさん!馬車馬!馬車馬になってイエス」
…なんだそりゃとは思うが僕はストーンがガードに当たらないよう必死になる。
ストーンはガードを越え、なんとかハウス内のストーンまで届く。
「ナイススイープ!」
ハウスまで来た秋さんとハイタッチする。
「ありがと!わへいさん!」
秋さんや松山からも声援が飛ぶ。
…なんだろう。
久しぶりに感じたこの楽しさは。
互いに同じような技術だからこその拮抗。
その中で最善を尽くし結果が出たときの喜び。
一方的ではない試合展開。
僕は最近はリューリとペアを組んでずっと試合をしていたが、いつの間に辛い事が多くなっていたことに気付く。
本来カーリングとは辛くなるスポーツではないのだ。
皆でああでもない、こうでもないとワイワイ騒ぐ。
良いショットに敵も味方も関係がない。
相手のミスを願うなんてもっての他。
ああ、そうか。
僕は最近ずっと辛かったのか。
それは、楽しいはずがない。
僕は皆と心の底から笑いあった。
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