第六章 十一月 その12

北海道からの私立KF高校との合宿初日。


僕達の公立高校、リューリ達の私立学園、そしてKF高校。


三つの学校のカーリング部が一堂に介した。


合宿は土曜日、日曜日の二日間のみ。


月曜日は祝日だが、その日は移動日となる。


どんな練習をするのか、気になっていたが、内容はいたっていつも通りだった。


贅沢にも三つのシートを使ってではあるが、それぞれの部長と顧問が挨拶した後の準備体操。


アイスの上でのウォーミングアップ。


上級者と初心者と分かれてのフォームやリリースの練習。


カーリングを始めてまだ半年の僕は初心者クラス。


リューリや黒崎、野山先輩は上級者クラスにいる。


…こういう時にリューリとの実力差を思い知らされる。


僕がペアを組んで良いカーラーじゃない。


もちろんキャリアが違いすぎるのだけど、僕より上手な選手と組めば、彼女はミックスダブルスでももっと活躍出来るはずだ。


この間の町内の大会でも良い結果は残せなかった。


僕が足を引っ張ったからだ。


ミスショットをする度に、それをリューリにカバーしてもらう度に僕は消えて無くなりたい気分だった。


…いけない。


自虐的になりそうだ。


以前にもあったが、こういうくらい感情は時に人を魅了する。


取り付かれないよう注意しないといけない。


ふうっとため息をつく。


「なんだよため息なんかついて。辛気くさいな」


振り向けば松山と新田さん。


新田さんは車椅子でアイスの上に乗っていた。


「お前、初心者だったのか」


「カーリング始めたのは高校生からなんだ。軽井沢ここだと小学校前からやってる子もいるから。肩身狭いんだ」


「…どこも同じだな。俺も佳乃も高校生からなんだ」


リューリ達の上級者シートを見る。


今回は特別にカーリング場のコーチ(元オリンピアン)が指導を行っている。


一通り練習が基礎終わるとその場でペアを組むことになった。


「俺は佳乃以外と組むつもりはない」


松山は新田さんと。


「あの。わへいさんですよね?良かったら組みません?」


さて、僕はどうしようかと考えていると声を掛けられた。


ボブヘアーでくりくりした大きな瞳がこちらを見ている。


…一瞬目が彼女の胸元に行きそうになりあわてて見ないようにする。


…それくらい目を引く大きな胸だった。


「え…と?」


たまに練習で一緒になる、私立学園の女の子。


挨拶くらいはするけど、名前は知らなかった。


…相手は僕の名前を知っていたが。


「森ノ宮秋もりのみや あきです」


「森島です」


「知ってますよぅ。わへいさん。リューリ先輩の彼氏さんですよね」


「…」


私立学園で僕はどんな風に噂されているんだろう。


…恥ずかしい。


「で、私も初心者なんで、組みませんか?」


「いいよ。僕も、へたっぴなんだ。僕でよければ。え…と。森ノ宮さん?」


「秋でいいですよぅ」


「秋さん、よろしく」


秋さんと握手を交わす。


「森島に森ノ宮でなんだか森ばっかり」


「本当にそれね」


人懐っこい笑顔が小動物のような女の子だった。


ふと隣のシートを見るとリューリは、私立学園の二年男子とペアを組んでいた。


ちらちらとこちらを気にしている。


…目が合った。


「わへいさん?始まりますよ?」


「うん、行くよ」


秋さんに話し掛けられすぐにリューリ達のシートを見るが、すでにリューリ達はいなくなっていた。


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