第六章 十一月 その10

リューリや黒崎達は僕を心配しながらも帰っていった。


「…あなたって本当に優しいんだから…。でもあなたの特別は私。覚えておいてね?」


僕に釘を刺していった。


「…もし、忘れたら…また私が所有権を主張するからね」


僕の首もとを見ながら言う。


ちなみに僕の首筋、胸元には彼女が付けたキスマークがまだうっすらと残っている。


…明日は旭先輩達が泊まるのだが風呂でバレないだろうか?


心配になる。




僕の家には、牧村先生、松山、それに車椅子の新田さんが残された。


今日は新幹線の中で食事を済ませているとのことで、僕は簡単に家を案内する。




本来なら父も帰ってくる時間なのだが。


「連休中はは母さんの所に泊まるから。心配するな」


とのことだった。


…なんだ、結局上手くやってるんじゃないか、とは思う。


それこそ母さんが我が家に帰ってくるのは時間の問題だろう。


…そういえば母さんの借りているアパートにはショーコさんが転がり込み、住み着いていると聞いていた。


…大丈夫だろうか?




三人を案内している中で一番迷ったのはお風呂。


足の悪い新田さんは牧村先生が付き添うとのことだった。


新田さんは全く歩けない訳ではなく、室内では松葉杖で歩行していた。


我が家には手摺はないので、こういう時に廊下やトイレ、お風呂等に手摺が必要だということを痛感する。


問題は松山。


どうやら“彼女”は本当に“彼”のようだから男風呂に入ってもらうことにする。


もちろん僕は後で入り、先に入ってもらう事にした。


「うー。さみーな。こっちも」


十五分程で松山が戻ってくる。


頭にはバスタオルを被っている。


…寒いのはろくに頭を乾かしていないからだろう。


「寒いだろう。何せボロいからな」


「おま、性格悪い《ワリー》な。根に持ってやがるな?」


「性分だ。気にするな。それよりドライヤー、脱衣場にあっただろ?風邪ひくぞ」


つい最近全く同じ会話した気がする。


面倒メンドーなんだよ。ドライヤーって」


言いながら頭をわしゃわしゃと雑に拭いている。


Tシャツにスウェット。それが“彼”の風呂上がりのスタイルなのだろう。


東北地方や北海道など北国の人の特徴なのだろうか。


肌の色が白く、きめ細かい。


肌が白いためお風呂で頬が赤く上気しているのが目立った。


眉毛は太め、唇もぷっくりと厚い。


胸がなければ確かにそのまま美少年、という感じだ。


ベリーショートの髪型と相まって中性的な魅力がある奴だった。


「僕もお風呂入ってくるけど。髪は乾かせよ」


「はいよ。お前、母親みたいだな」


「所帯じみてるってよく言われるよ」




結局僕がお風呂から上がっても松山はドライヤーを使わず自然乾燥に任せているようだった。


「…疲れただろう?明日も早いし今日は寝るぞ?」


僕は上段のベッドに上がりながらベッドに寝っ転がっている松山に声をかける。


「そうだな。さすがに半日の電車移動は疲れたよ」


僕がリモコンで照明を暗くする。


「おやすみ。明日僕は六時には起きるけど気にするなよ」


「そうか。まぁ俺も六時には起きてるけどな」


…普段から早起きなのだろうか。


「なぁ。森島。寝たか」


「…いや」


「お前、なんで色々聞かないんだ?」


「聞くって何を?」


「俺のこと、さ」


「根掘り葉掘り聞いて欲しいのか」


「いや」


「自分語りでもしたいのか」


「それも違うな」


「なら良いよ。話したいなら話せばいい」


「お前、ドライだな」


「…よく言われるよ」


「ありがと、な」


「…」


疲れていたのか、それだけ言うと下からは規則正しい寝息が聞こえてきた。


僕ももう色々考えることはせず、眠りについた。








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