第六章 十一月 その4

夕方、清掃が終わり各自帰っていく。


僕はリューリを誘うのが良いのか迷う。


すると。


「私、残るから」


あっさり宣言をしてリューリが残る。


皆は“察した”という風で何も聞かず帰っていく。


「お疲れ様。何か飲む?」


カウンターに座っているリューリに聞くが返事がない。


「リューリ?」


俯いている。


「疲れたかな?…まだ生理中だっけ?体調大丈夫?」


矢継ぎ早に聞く僕にリューリがため息をついてこちらをちらりと見る。


「…生理は終わってるわ」


「そうか」


…これは。


彼女の子供っぽい部分で何か引っ掛かってるな、と推測する、僕。


「ちょっと」


「ん?」


「ちょっと嫉妬した」


「嫉妬?何に?」


「自分で提案しておいて、自分勝手だけど」


僕はそれでもと思いコーヒー豆を挽きながら話を聞く。


「ここ、私だけが知ってる場所で、わへいに料理を出してもらうのも私だけだと思ってて」


そこまで聞いて僕は納得する。


例えば自分だけが知っている場所やお店がメジャーになったとき。


自分は前から知っていたのに、という疎外感。


彼女が感じるのはそれだろうか?


確かに提案したのが彼女だけに、誰に対しても文句が言えない。


「皆に知られてしまって悔しい、と」


「…場所だけではないわ」


「どういうこと?」


「…あなたが…」


…僕が?


何かしただろうか?


「あなたが、皆に優しいから」


彼女がカウンター越しにこちらを睨んでいる。


…そうなるのか。


僕は彼女の理屈を妙に感心しながら、でも言い訳はしないことにする。


「それは、気付かなかった。ごめん」


「だから、私をもっと特別扱いして」


「君はいつも特別に扱っているつもりだけど。夕飯食べていく?」


「駄目。皆と同じことされても嬉しくないわ」


彼女のペースになっている事は分かりながら、それでも僕は何をして欲しいか聞かねばならない。


その一言を僕が言った後、彼女はなんと言うだろうか。


もし、抱いてくれ、と言われたら僕は、どうするんだろうか。


「どうして欲しいの?」


ええい、ままよ、と聞いてみる。


「キスして」


瞬間、ホッとする僕。


…表情に出たかもしれない。


「分かった」


「…でもその前にシャワー貸して。埃っぽくて。女性用のお風呂使えるんでしょう?」


「使えるよ。乾燥機もあるから、洗濯して乾かそうか?乾かしてる時間、ある?」


「それは、大丈夫。…何か着替え貸してもらえる?」


「僕の部屋着でいいかな?もちろん洗ってあるけど」


「それでいいわ。…あなたもシャワー浴びなさい?」


「…!?一緒に!?」


「…そんな事あなた、絶対照れて無理でしょう。あなたは男性用」


「…」


そんな事はない、とはやはり言い返せない僕だった。






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