第六章 十一月 その5

「これ、ボディソープとシャンプー、リンス。脱いだ衣類はこのかごに入れてね」


自分で言いながら“脱いだ”という言葉でひどく狼狽えてしまう。


これからリューリがここで服を脱いで裸になって、シャワー浴びて…。


僕は本当に後でリューリの服を洗濯機に入れて洗濯するのだろうか?


乾燥機に移すのはどうしよう等と考える。


ちなみに乾燥機は梅雨の時期にあまりにも洗濯物が乾かないので親父に直訴して購入した代物。


我が家で現存する家電製品の中でもダントツで僕のお気に入りの一品だ。


とりあえず洗濯についてはさすがにリューリにやってもらおう、と心に決める。


「あとハーフパンツとパーカーとTシャツ…でいいかな。洗ってあるから変な臭いはないと思うけど。」


「大丈夫よ。気にしないわ。それにあなたの香りなら構わないわ」


喜んでいいのか、非常に複雑な気分になる。


「先に洗濯物は洗濯機に入れて洗っておいてね。シャワー浴び終わる頃には洗濯終わってると思うから、乾燥機入れてスイッチ入れておいてね」


「ありがとう。あと…その、あなた下着はブリーフ派?トランク派?」


ちょっと照れながらリューリが聞いてくる。


さすがにこの質問の意味が分からず、咄嗟に答えられない、僕。


「…僕のパンツに興味が?」


「…なくはないけど、違うわ。その、トランクスなら貸してくれない?下着も洗いたいのだけど。そのブリーフでも良いけど、何て言うか、さすがに恥ずかしいから…」


僕の下着をリューリが身に着ける…。


僕は恥ずかしさで、まともにリューリの顔が見られず、今すぐにでも回れ右で逃げ出したい気分だった。


「ええと、分かった。僕はトランクス派?」


「…私に聞かれても困るわ」


リューリが苦笑する。


「トランクスだから、心配しないで?」


「…心配はしてないわ」


またも苦笑する、リューリ。


僕は慌てて自室に戻り、なるべく新しいトランクスを選ぶ。


こういう時、もっとクールに対応出来るようになりたいと思う。


でもそれは、こういう状況に慣れきった、という訳で。


そんな自分は見たくない想いもあった。


女性用のガラス戸をノックする。


曇りガラス越しではまだ人の気配はあり、着替えている様子もない。


「どうぞ」


リューリが短く応え、僕はなるべく正面を見ないように脱衣場に入り、トランクスをうやうやしく差し出す。


「トランクス一丁」


「出前?」


リューリが吹き出す。


「それじゃ、ドライヤーもあるから、ごゆっくり」


「わへい」


出ていこうとする僕をリューリが刑事コロンボみたいに呼び止める。


「私の裸、みたい?」


このタイミングは不意討ちだ。


「…ご冗談を」


「……本気、だけどね」


僕はその場にいることが出来ずに立ち去る。


…からかわれている。


心臓が爆発しそうだった。

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