第六章 十一月 その2

十一月中旬の練習日。


カーリング場での練習が終わると珍しく顧問の先生が現れた。


「部長、皆を集めてくれんか?」


「はーい!注目ちゅーもく!珍しく顧問ティーチャーが来てるよ!話を聞いてあげて!」


「珍しいな顧問ティーチャーが来るなんて」


野山先輩も驚いている。


僕らの顧問はカーリング経験が無いということで、練習は専ら部長達に任せていた。


その顧問がカーリング場に来るとは極めて珍しい。


「顧問ティーチャーが来た!?写真撮ろう」


「珍しい!」


皆が口々に言う。


「あーいや、お前ら。俺を珍獣扱いするな?」


不精ひげを生やしいかにもうだつの上がらない教師といった風貌だが、教師としては(コアな)女子から人気があるらしい。


…そう言えば名前、なんだっけ?


「月末に北海道の高校が来るっていうのは聞いてるな?まぁ、毎年恒例なんだが。今年はうちも練習に混ぜてもらうことになった」


顧問が話すと、隣で片付けをしていたリューリ達…私立学園のメンバーも手を止めてこちらを見ている。


「と、言うわけでよろしくお願いします。学園の皆さん」


「こちらこそ、よろしくです」


私立学園カーリング部の部長がペコリと挨拶する。


「それでここからが相談なんだが」


…何だろう。


「ちょっと皆の知恵を借りたいんだが。一つは交流を兼ねた何か…食事会みたいなことをしたい。も一つは、去年まで使っていたペンションが閉館しちまって数名だけ泊まれる所がないんだな。…数名でいいから泊まれる場所探してるんだなぁ。…両部長、なんとかならんかな?」


うちの部長と学園の部長が顔を見合わせる。


「ああ、君達の顧問には俺から連絡してあるから。こちらの裁量に任せるそうだ」


「…なんでわざわざカーリング場で話をしたんです?学校で話せばいいのでは?」


「まぁその、なんだ。学園の皆さんにも色々関わってくるし、それならまとめて話すのが楽だしな」


「今回に限ってなんでそんなに顧問ティーチャーが音頭とってるんです?」


「まぁその、なんだ。相手高校の先生が困ってたからな。去年までとは先生が変わったらしくてな。勝手が分からんらしい。力になるのは当たり前だな」


「ちなみに相手高校の先生は女性ですか?」


「うむ。あの声から察するに相当な器量良しだな。間違いない。しかも声から察するに歳は俺より若いな。絶対に。そして声から察するにまだ独身だろう。これも間違いはない」


「…よく声だけでそこまで舞い上がれますね」


「…分かりやすい」


「…単純すぎ」


「嫁探しかよ」


「フラグ立てすぎだろ」


皆から散々な言われ方をする。


「まぁ、顧問ティーチャーの思惑はともかく主旨は分かりました」


「はい。提案」


リューリがスパッと手を挙げる。


「ああ、どうぞ。ええとお名前は?」


「機屋はたやリューリです。そちらの学校の森島わへい君とお付き合いさせて頂いております」


学園側、市立学校側から“おおーっ”という驚きの声が響く。


僕はと言えば。


僕達の関係を知ってる人は知っているし、変に狼狽えてリューリを傷付けるのも嫌だし。


“付き合ってますが何か?”風を装う。


「…顔、あっかいけどな」


野山先輩が隣でぼそりと言う。


…ポーカーフェイスは無理みたいだ。


「その、森島君のお宅を使わせて頂くのは如何でしょうか?」


リューリが僕と顧問の顔を交互に見ながら言う。


その考えは有りだと思っていたので僕も驚きはしない。


「どうなんだ?森島?」


「はい。僕の自宅は昔ペンションだったので部屋はあります。食堂も広いですから。集まることは出来ると思います」


「二、三人宿泊可能か?」


「父親の許可をもらってからですが。父は反対しないと思います。大丈夫かと」


「もちろんそうなれば部費からいくらかは出させてもらうから、検討してくれないかな」


「あ、ただ…」


僕は以前に調べた事を話していく。


「軽井沢町では民泊は認められていないので、当然お金は頂けません」


「お前、硬いなぁ」


顧問が呆れているとも感心しているともつかない声で言う。


「そこであくまでも僕の知人を二、三人泊めるという事なら大丈夫かと」


「そうか。お願いしといてなんだが、負担にはならないか?」


「事前の部屋の準備と交流会の準備で何人かお手伝い頂ければ」


たまに僕が掃除しているとはいえ、部屋の清掃等は必要だった。


「なら僕らはチームてますから。チーム黒崎手伝います」


「私も、手伝います」


「かわいい弟子の事だ私も手伝ってやる」


黒崎、リューリ、野山先輩が手を挙げる。


「当日の準備は市立学校と学園から有志を募りましょう。それでどうですか?」


うちの部長が学園の部長に向かって言う。


「そうですね。いいですよ!楽しそう!」


「宿泊者の中に車椅子の子がいるそうだが大丈夫か?」


「スロープがありますし、一階に部屋があるので大丈夫かと思います。お風呂とかで介護の方が必要ですが」


「わかった。それは向こうの先生に一緒に宿泊してもらうようお願いしてみるよ」


「当日は他に数名宿泊しても大丈夫ですか?せっかくの交流なので」


リューリが今度は両部長を見ながら言う。


「森島君のお宅が大丈夫ならいいんじゃない?迷惑かな?どう森島君」


「まぁ何人でも変わらないですね」


「くれぐれも風紀は乱すなよ?節度守って問題起こさなければ学校には掛け合ってみるさ」


たまには顧問らしいことするんだな、と皆が考えているだろう。


「それじゃ大枠こんな所かな?買い出しとか両部長で金額やらリスト出してくれるかな」


「了解りょーかいです」


「ありがとな。これで向こうの先生も喜んでくれるだろう。それじゃあ今日は解散」


こうして、月末に向けての準備が始まったのだった。




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