第六章 十一月 その1
リューリ、野山先輩、黒崎と四人でカーリング場から帰宅し、野山先輩と黒崎とは野山先輩の自宅前で別れる。
リューリと二人。
「今日は…僕の家でコーヒー飲んで行く日かな」
「…正解。私の体調、よく把握してるわね」
彼女と付き合うようになってから、僕の中で様々な変化があった。
それは女性という、自分とは身体の造りが全く異なる存在を理解し、気を遣い、
リューリと二人でショーコさんに謝罪に行った八月のあの日。
あの日から僕の中で女性の見方が変わったのだった。
それまで僕の中での女性は、中学校から引き続き性の対象として、”そういう目”で裸に興味を持っているだけだった。
“そういう目”はもちろん今もあるけど。
それがいかに男特有の身勝手な行動となって表れ、女性を傷付ける恐れがあるか、僕は知った。
だから僕はミックスダブルスの時と同じ、いやそれ以上に女性としてリューリを理解しようと努めていた。
僕は、リューリの生理周期を把握していた。
こういう事は他の誰にも言わない。
…きっと気味悪がられるから。
本人にも言うか迷ったのだが。
勘の鋭い彼女は、すぐに僕が彼女の生理周期を把握していることに気付いた。
そして僕は、彼女が性的な興奮を望む周期が、生理周期と重なっていることも同時に把握していた。
その事を正直に話した時のリューリの反応は、僕の予想とは違ったものだった。
優しく頷き、理解を示してくれた。
そして、自分の体調の事や、生理痛の事など細かく僕に教えてくれたのだった。
僕は知識として知ってはいたが、それは対象が不特定多数で一般論としての知識だった。
好意を持った大切な女性が一週間もの間出血が続くことに、僕はただ狼狽えるだけだった。
かつてリューリと交際していたリョージさん。
ショーコさんいわく、彼との性行為でリューリの身体には性的な欲望が強く刻印されている。
それが表に出てくる周期が生理前後。
彼女の十月の日程を考えると、今月そろそろその周期に入る頃だった。
僕はまだリューリと“そういう”関係にはなっていない。
リューリの生理周期に合わせて、僕が望めば。
恐らく“そういう”関係にはなれるだろう。
それが本当に良いことなのか、僕にはわからない。
“覚悟をきめるよ”
八月に僕が彼女に約束した言葉。
…覚悟。
自分で言っておいて何だがそれって何だろう?
“コーヒーを飲んで行く日”
これは僕達の細やかな暗号だ。
実際にコーヒーを淹れてリューリが飲んで行くのだが、それだけではなく。
彼女の性的な興奮が高まり、それを僕にぶつける日。
その日も僕の自宅に到着し、リビングで鞄を置いた瞬間。
リューリから、八月のあの日のような情熱的でほとんど性行為のような口付けが僕を襲う。
そのまま、僕らは三十分程、唇を重ね続けた。
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