第二部 プロローグ
僕とリューリが付き合い初めてから三ヶ月経った十一月上旬。
僕は軽井沢の寒さに再び恐れおののいていた。
「…果たして僕はこの冬を越えることが出来るのだろうか」
ポケットに手を突っ込みながら、真っ暗になった夜道を歩く。
寒さにガタガタと震え、歯の根が合わない。
「…大袈裟だなぁ」
「相変わらずの
「…私が暖めてあげるわ」
三者三様の言葉が返ってくる。
ちなみに一番初めから黒崎、野山先輩、リューリの言葉だ。
僕らは部活を行った後、四人で一緒に帰っている。
さりげなく、リューリが意味深な発言をする。
「いやいやいや、リューリさん?ちょっと発言控えようか」
「手、冷たくなってるわ。手袋ないの?」
「鞄の底に閉まってあって出すのが大変」
「…手、繋ぐ?」
「いや、ほら先輩達いるし」
「おいおいおい!リア充ども(`Δ´)」
野山先輩がキャスケットの下からじろりと僕らを睨んできゃんきゃんと叫ぶ。
…小型犬みたいだ。
人の事を雑魚だなんだと言いながら、本人もキャスケットを目深に被りさらにマフラーに鼻まで埋めている。
でも首からはタブレットPCを、下げている。
「あんまりいちゃつくから眼鏡が曇ったぞ!」
「マフラー上げすぎですよ。ハナさん」
喰って掛かる野山先輩を黒崎が止める。
僕とリューリが付き合い始めた事は、すぐに野山先輩と黒崎に話していた。
その時の反応ときたら。
「おめでとう、だな。いや、ありがとうかな。リューリさん良い笑顔してるじゃないか」
「あれだけ背中押してやったんだから動いてなかったらマジ蹴っ飛ばすところだ。…でも、お前にしてはよくやったな。……………ありがとな」
ちなみに一番最初が黒崎、次いで野山先輩の言葉だ。
「リア充爆(は)ぜろ。さっさと結婚してしまえ」
野山先輩が憮然としながら、文句を言う。
眼鏡は雲って真っ白だ。
それでもタブレットPCを操作してるんだから大したものだった。
以前、野山先輩とリューリの仲は険悪だった。
それは野山先輩がリューリが既婚者と付き合っていることに対して嫌悪感を抱いていたからだ。
野山先輩にはそういう潔癖症なところがある。
今もリューリに対しての言葉はつっけんどんだ。
しかし、明らかに以前の様子とは違い、二人は一緒にいる時間が多くなった。
学校は違えども、カーリング場で練習が重なる時にはこうして一緒に帰るのが僕らの日常になっていた。
きっと。
リューリ、野山先輩、黒崎が同じ中学校でカーリング部だった頃はこんな帰宅風景だったのだろうと思う。
二人を見て僕は自然と笑みがこぼれた。
…楽しい。
なんて充実した毎日だろう。
「そんなに羨ましいなら、あなた達もさっさと付き合えばいいんだわ」
リューリが思い切り斬り込む。
僕もそれは思う。
この二人の雰囲気は悪くない。
むしろ黒崎はおそらく、野山先輩に惹かれている、と思う。
わからないのは野山先輩。
全く脈がないわけではないと思うのだが。
以前に黒崎について聞いたときには、弟だの舎弟だの散々な言い方だった。
「三次元は…NGだ」
ぶすっと野山先輩が言う。
「…僕は待ちますよ」
さらりと黒崎が言う。
この二人、実はすでに何かあったのではないだろうか?
とは、思うが他人がとやかく言って関係を壊したくない。
黒崎は大切な友人で、野山先輩は僕の師匠と言っても過言ではない。
「そう言えば…」
黒崎が話題を変える。
「そろそろですか?北海道の高校との合同練習」
「そうね。今回は月末の三連休で行うから」
「ちなみに今回はうちも参加だぞ」
「そうなんですか!?」
「いや、わへい、部長がこの間言っていたぞ」
「まぁ相手さんは希望者だけみたいだけど。お前ら全員参加な」
…そう言えば部長が話していた気がする。
「北海道勢は強い。良い機会だぞ」
黒崎が嬉しそうに言う。
僕みたいな素人が参加していいものだろうか。
「ミックスダブルスも練習試合するわよ」
リューリが隣に並んで言う。
「町内の大会は散々だったから。また僕がペアでいいの?」
「私はあなたがいいわ」
真っ直ぐ言われて照れる僕。
「リア充(ry)」
すかさず野山先輩が突っ込む。
いよいよカーリングシーズンの到来だった。
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