第五章 八月その32
僕は告白を終える。
心臓は胸の中でダンスでも踊ってるみたいにばくばくしている。
熱中症で倒れたときとは別の、鼓動。
リューリは黙っている。
どれくらいの時間が経過しているか、よく分からない。
僕は自分がしゃべっているときから、時間の感覚を無くしているようだった。
彼女が僕の額にあるタオルを取り、代わりに自分の手を当てる。
「私もね、今の状態が良いとは思っていないわ」
僕の髪をかき上げる。
…汗っぽくないかな。
夏の真っ昼間にずっと外で働いていたわけで…。
僕は彼女の手の平を感じながら、そんなことを心配する。
「…でもどうやって抜け出したらいいか。分からなくて。そのまま彼との関係を続けてしまって。わへい達を見ていて。ハナや黒崎君を見ていて。あなたも見た、中等部の後輩を見ていて。私も、本当はこういう風に皆と関わって、恋愛したかったなって思ったわ」
彼女の冷たく心地よい手の平が僕の頬に触れる。
…今度はもう少し朝にしっかりと髭を剃れば良かった、と別の心配をする、僕。
「…私は皆を馬鹿にしていた。子供っぽいって。でもあなたの言う通り。子供なのは私。相手が大人だったから、私は楽だったのよね。私は…やり直せるかしら」
いつもは凛とした眼差しが不安に潤んでいる。
ここで僕が言うべきことは、もちろん一つ。
「やり直せるよ」
そして今度は間違えずに僕は彼女に伝える。
「相当、面倒くさいわよ?私」
「知ってる。僕は君のミックスダブルスのパートナーだよ?君の癖は、少し知ってるし、君の面倒くさいところはたくさん知ってる」
あ、ちょっと機嫌損ねたかも。
「でも、こうやってお互いケンカしながら、お互い変わっていくのは、正しい事だと僕は思う。楽はさせてあげない。ひょっとしたらケンカし過ぎて途中で僕らの関係は終わってしまうかもしれない。それでも。そういう時間は無駄じゃないと僕は思う」
「こういう時は嘘でももっと相手を安心させる言葉を言うべきじゃない?」
「僕はこういう時に嘘は言わない。簡単に安心もさせてあげない。事実と、可能性をきちんと伝えて、二人で考えたい」
「…あなたも相当面倒くさいわね」
「お互い様だよ。それで…このラインはYes、なのかな」
「ふふっ。そうね」
僕の冗談が面白かったというより、緊急が解けたのだろう。
彼女が微笑んだ。
「…Yes。ラインは良いわね。後はウェイト次第?」
「ちょっと遅かったけど、僕のスイープで伸ばすよ。まだ間に合う」
「それじゃ最後までYes。頑張りなさい」
「君もハウスの中から手伝いに来てくれよ。楽はさせないって言ったよね」
「良いわよ。スイープ力の違いを見せつけてイニシアチブ取るから」
僕達は堪えきれず同時に吹き出した。
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