第五章 八月その31
一呼吸置いてリューリが続ける。
「…あなた、うわ言でずっと私に謝り続けてた」
…そうだったのか。
確かにリューリに謝りたいと思っていたが…。
まさか口に出していたとは。
しかし、うわ言で謝っていたということは…?
「…ひょっとして…」
「あなたのアルバイトの主任さんや黒崎君にも聞かれてたわ」
は…恥ずかしい…。
今度どんな顔で主任と黒崎に会えばいいのか。
「うわ言で謝るほど気にしてくれたのは嬉しいけど」
また僕の目を見たまま、ふぅっとため息をつく。
「…恥ずかしかったわ」
「そりゃそうだ」
僕もため息をつく。
まさに穴があったら入りたい、だ。
「改めて、心配かけてごめん」
僕は身体を起こそうとする。
それをリューリが僕の肩に触れ、そっと制止する。
「あと、昨日も、そのごめん。横恋慕なのもわかってるんだ。ずっともやもやしていて。君とリョージさんのことで。昨日はきちんと自分の気持ちを伝えて…」
リューリの真剣な眼差しに僕が目を逸らしそうになる。
「伝えて、君に振ってもらえれば、そんなもやもやだって無くなると思ってたんだ」
リューリはじっと聞いている。
僕は頭を振る。
「…違うね。振ってもらいたいんじゃない」
僕は建前ではなく、本音を言う。
「君が初めてこの部屋に来て、あの日から。僕は君とリョージさんが…その…あれ、やってる夢ばかり見てしまって」
もはや自分が何を言っているのか、分からなくなってきた。
顔が真っ赤になっているだろう。
影になってるから目立たないだろうけど。
ここまで来たら。
僕は覚悟を決める。
曝け出すしかない。
僕の本心を。
僕がどれだけ情けないか。
僕がどれだけ嫉妬深いか。
でも、どれだけ彼女を想っているか。
「…もう、建前とか言わないから。僕の本心を聞いてくれるかな」
リューリはこくりとうなずく。
「君にあの人は似合わない。僕は嫉妬したんだ。君のような、才能も未来もあるそんな、そんな君をなぜ、不倫なんてそんなことに巻き込む?そして君にも腹が立ったんだ。なぜ、そんな関係を続けるんだって。だったら、だったら…」
これ以上言うと恐らく取り返しがつかないほどにみっともない。
でも。
お節介?構うものか。
「だったら、僕と、僕と付き合って欲しい。僕がダメでも良い。あんな関係は止めて欲しい」
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