第五章 八月その24

「ああ、ええと久しぶり?」


「…私に聞かれても困るわ」


今日は試合で来た訳ではないのだろう。


いつものジャージではなく、白いノースリーブにジーンズという私服姿だった。


足の長い彼女には細いジーンズがとてもよく似合っていた。


ノースリーブから伸びている腕はほっそりしている…訳ではなく、スイープをするための筋肉が所々見てとれた。


腕を組んだり、荷物を持ち上げたり、ふとした拍子に筋肉が浮かびあがることを僕は知っていた。


夏服を着るのであれば、二の腕までは隠した方がいいかもしれない。


…僕としては彼女の筋肉が拝めるのは嬉しいが、より女性らしくするなら、きっと隠した方がいい。


…いや、誰のために提案してるんだか。


「…また黙ってる。本当に今日は変だわ」


「うん。変なんだ」


…君がリョージさんに抱かれるって知ったときから。ずっと。


性行為そういうことをしている男女であれば、きっと相手の身体を触れるということに対して、また触れられることに対して抵抗はなくなるのだろう。


彼女の均整のとれた身体は…頭や、肩や、胸や、それに…。


彼にどう触られているのだろう。




…ずきり。




僕の心の一番深い場所で、また昏い炎がくすぶるのがわかる。


「今日は中等部の子達の応援で来たのよ」


リューリが窓ガラスの下のカーリングホールを見ながら言う。


確かに。先ほど黒崎に告白していた子達が試合をしていた。


振られた後に試合をするって…。


僕にはとても真似できない。


女の子は…強い。


「彼女…」


「うん」


「あのスキップの子、さ」


「…うん」


「さっき黒崎に告白したんだ」


「…そう」


「でも、自分の気持ちをまっすぐ伝えられるって素晴らしいと思う。…例え…」


僕は一呼吸置く。


「例え、振られたとしても」


「そう、ね」


きっとリューリはあの女の子から相談を受けていたのだろう。


そして今日の事も知っていたのだろう。


おそらく、結果も予想していたのだろう。


だから、今日はこの場に来ているのだろう

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