第五章 八月その22

相手チームとの握手を交わし、僕らのチームはシートの清掃に入る。


「勝ったチームの特権だな」


旭先輩が肩を叩く。


カーリングホール脇に置いてある、シートの半分くらいの大きさがあるモップを持ちシートの上を滑っていく。


一往復して戻った後に旭先輩がホウキとちり取りでゴミを集めてくれた。


黒崎はスコアシートに得点を記載し、相手チームのスキップと確認しあっている。


これもスキップの大切な仕事だ。




試合後、二階のラウンジで本当にささやかながら缶ジュースで祝杯を上げる。


黒崎の妹達はいなかった。


おそらく母親が迎えに来たのだろう。


僕らは試合を振り返り、あの時はどうだったか、もっとこうすれば良かったとか話し合う。


将棋等で対局後に棋士が対局を振り替えるのに似ている。


もっとも僕らのはほとんどお遊びで、ふざけあっているだけだが。


こんな時間が楽しく、貴重だった。


「わへいは腰大丈夫か?」


黒崎が聞いてくる。


本当にこいつは気が利くと思う。


「実はちょっときつい。いや結構きつい」


「わへいの腰痛は骨か?筋か?」


「骨…らしい。よくアイシングするよ」


かつてお世話になったマッサージ師から僕の腰痛は無理した後はよく冷やすように言われていた。


「そうか。よく労ってな。次の試合は八月末…」


言いかけて黒崎が何かに気付く。


「それじゃ、僕達はこれで帰るから。またな、わへい」


突然の終了宣言。


「行きましょう、先輩、友利」


旭先輩と友利を引き連れて席を立つ。


「それじゃあ。頑張れよ、わへい」


「ふぁいとです~わへい君」


そして激励の言葉。


「あ、おい…」


止める間もなく帰っていく。


なんだろう?


僕が振り返ると。


そこには、リューリがいた。

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