第五章 八月その14

「カーリングでも同じ」


一通り捲し立てた後、野山先輩は静かに続ける。


「今日勝つのは大事。でも負けても次に繋がれば、よし」


タブレットPCを床に置いて、言う。


「いい線いってると思うんだ。わへいなら。あいつからチームメイトとして指名されるなんて、たぶん他に例がない」


もぞもぞと膝を抱える、先輩。


「わへいでダメなら。他のヤツでもダメだろう…ってことはないか」


「いや、そこは言い切って欲しいですね」


くくくっと先輩から笑いが漏れる。


「わへいは熱血だからな。ここから激アツ、胸アツ思い込み一直線の青春あおはるかましてくれそうだ」


「先輩、ひょっとしてけしかけるだけ、けしかけて状況楽しんでません?」


「それも、ある(。-∀-)」


「あるんだ!?」


「見てて楽しい」


「…酷いですね」


「拗ねた顔も素敵だぜ」


「止めて下さい」


「止めない」


「そういう先輩はどうなんですか。恋愛の一つでも」


「よせやい。恋愛とか聞くと蕁麻疹じんましんが出るんだ」


「他人のことは色々言うくせに」


「私わたしゃーゲームが恋人。二次元がいい」


「黒崎はどうですか」


「…」


野山先輩が言葉に詰まる。


…まさかヒットしたか。


「あいつはそれこそ付き合い長すぎて。もう後輩、弟分、舎弟、使いっパシリ」


「どんどんグレードダウンしてるんですが」


「それな」


話をはぐらかされる。


面倒めんどーな女の子を引き受けてくれないか」


真剣な眼差しだった。


「…野山先輩はリューリのこと、大切に想ってるんですね」


一応いちおー友達だった…友達、だから、な」


「考えておきますよ」


「良いのか?」


「良いんですよ。冷静にならせて下さい」


「いや、違う」


野山先輩がまた上目遣いでじろりと睨む。


「その…」


そしてちょっと言い淀む。


「一度ヤッてしまったんなら…」


ヒヤリと嫌な汗が垂れる。


「何度も抱かれるんだろ?たぶん。わへいはそれに耐えられるのか」


また僕の中で昏い感情が頭をもたげる。


野山先輩の顔色はわからない。


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