第五章 八月その13

「他人様の恋愛にとやかく言うべきじゃないけど」

野山先輩は眼鏡の奥から上目遣いにこちらを見る。

「その、いわゆる不倫ていうのは私はダメだと思う」

以外と正義感のある、野山先輩らしい物言い。

「あいつ、お父さんが施設に入って…変わった」

ぽつり、ぽつりと言う。

以前にリューリと介護施設で会ったが、車椅子の男性、あれがお父さんだったのだろうか。

「ちょっと…いや、かなりファザコンっぽい感じだったんだけど」

僕はリューリとリョージさんの接点は知らない。

だが、野山先輩の話を聞いている内に何となくではあるが、リューリの心情の変化は理解出来た。

何をリョージさんに求めているのか、も。

「…他人様の恋愛にとやかく言うべきじゃないけど」

もう一度野山先輩は言った。

「あいつ、このままあんな恋愛してても、良いコトないぞ」

上目遣いで僕を見る。

「私は恋愛経験ないからわからないけど、どう考えても父親像求めてるだけだろ」

本当に野山先輩はこの手の話が苦手なのだろう。

「それは恋愛じゃないだろ。しかも不倫とか、不健全だろ」

野山先輩のタブレットPCと僕の携帯で対戦は続いていた。

「私じゃ止められなかった。誰か…」

野山先輩のキャラの順番が続いている。

「誰かいないかな。あんな、美人だがクソ重い破滅型の女を矯正してくれる、同い年の男子」

じろりと僕を見る。

「あんな歳上で身体目当てで不倫なんてするような男じゃなくて、あいつのコト考えくれる、不器用でも熱いヤツ」

目を細める。

「僕なんてーなんて言わないヤツ」

野山先輩のキャラが一方的に僕のキャラを攻撃している。

「二人の迷惑になるから、とか面倒めんどーなこと言わないヤツ」

ゲーム上で次々に逃げ道が塞がれていく。

「場所もわきまえないで、今どき説教せっきょーの一つも言ってくれるヤツ」

野山先輩のキャラの攻撃が決まり続ける。

「でも、リューリ、彼女は、リョージさんに抱かれたみたいで」

どがっっ!

最大級の攻撃が僕のキャラに炸裂する。

完全にオーバーキル。

馬鹿ばっかじゃないの?他の男が触った女が嫌とか言う?」

「…」

「お前がもたもたしてるからだろ」

まだまだゲームが終わらない。ずっと野山先輩のターン。

「負けたくないからって消極的な戦術選ぶと、本当ほんとーにつまらない負け方するぞ?どうせなら、思いっきり無謀むぼーでも次につながる戦術選んで」

ようやく、ゲームが終わる。

「思いっきり面白い負け方してみなよ」

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