第五章 八月その10

嫌な夢から覚醒した後も、もやもやした気分は続いていた。


じっくりと全身に嫌な汗。


そして。


下腹部にどろりとした冷たい感触。


『…まさか』


僕は身体を起こして愕然とする。


『…適当な理由をつけて、シャワーを浴びよう』


夢とはいえ、チームメイトの裸、そして性行為を想像してしまった。


その上に夢精してしまったことに、ばつの悪さを感じる。


今度リューリとどんな顔をして会えば良いのだろうか。


「自分の気持ちに気付くのが遅すぎた」


それは本当は自分が自分に言った言葉だろう。


僕はリューリに惹かれている。


そして嫉妬している。


それを自分で気付いてしまった。




とりあえず、昨夜考えたことはこの自分の気持ちに蓋をしてしまうこと。


これで誰にも迷惑をかけることは、ない。


初めて会った頃よりリューリとはずいぶん親しくなった、と思う。


チームメイトとして。


今の距離感も心地良いと感じている。


…チームメイトとして。


これからも。


……チームメイトとして。


僕は起き上がりシャワーを浴びに行く。


今日はアルバイトの後は部活はない。


カーリング場に行かなくて済むからリューリに会うこともない。


今日は気持ちの整理をつけたかった。


明日になったら。


また元のチームメイトに戻るから。


そう、自分に言い聞かせる。




夏休み特に予定のない僕は、庭園でのアルバイトをがっつり入れていた。


今日は三時にはアルバイトが終わるから、部室に顔を出してみよう。


夏休みに入っても部室には、家に居ても暇な連中が集まってフィジカルしたり、おしゃべりしていた。


僕はシャワーを浴び、洗濯機を回し、父と自分の朝食を用意してから家を出る。


帰ってきたら今日は夕食はどうしようか?


そろそろ飼っている(?)海鼠なまこの水を変えてやらなければ、等々次々とやることを考える。


本当に僕は所帯染みているのだろう。


暗く沈んでいる時間もないことは、ありがたいことだった。

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