第五章 八月その8

彼女の告白の後、彼女の肩をそっと押し身体を離す。


彼女の体温、香りも離れていく。


少し距離を置いただけなのに、さっきより、ずっとずっと遠くリューリが離れてしまった気がする。


彼女は彼女の判断であの“リョージさん”に身体を許した。


『相思相愛の男女なら、当然だよな』


「行こう、抽選会始まってしまう」


「そう、ね」


僕らは薄暗くなり始めた部屋を出た。


その後は普通に彼女と話していたと思う。


二人でカーリング場まで並んで歩く。


何か話していて、返事もしていて、恐らく僕は努めて冷静だったはずだけど、会話内容は何も覚えていなかった。




カーリング場に到着し、二階に向かう。


カーリング場の二階が抽選会会場となっており、たくさんの人が集まっていた。


部長に野山先輩、黒崎もすでに来て席に座っていた。


「僕はチームの抽選があるから、ミックスダブルスはお願いしていいかな?」


「わかったわ」


リューリから離れて黒崎の隣に座る。


「今日は練習来てたのか?」


「うん、さっきまで練習してた」


「二人でどこに行ってたんだ?」


黒崎が僕に質問する。


こういう時にからかう奴ではないことは、よく知っている。


心配してくれているのだろうと僕は考えた。


「僕の家で軽食」


「頑張ってるな」


「…そうでもない。本当に」


黒崎が何か言いかけて、しかし抽選会が始まったため、そこで会話は終わってしまった。


抽選会では一般的なチーム戦と、ミックスダブルスのルールがそれぞれ説明された後にくじ引きとなった。


僕はチームの代表としてくじを引く。


「まぁどこになっても大した問題じゃないよ」


とは黒崎の言葉。


まずはくじ引きでA~Hまでの各リーグに割り振られ、各チームが総当たり戦を行う。


その後、各リーグの一位がトーナメント戦を行うというわけだ。


これがこの先十月まで続く。


ミックスダブルスも同様だった。


その後、ミックスダブルスの抽選が行われていく。


僕から見たらどのチームも自分より圧倒的に強そうに見える。


そして、僕より明らかに年下の子達も多数参加していた。


リューリがくじを引く。


「Aリーグ、三番!」


大会運営者が声を張り上げ、書記がホワイトボードに書き込んでいく。


それを僕も急いで自分の資料に書き込む。


野山先輩、黒崎チームと同じリーグになった。


「同じリーグだな。楽しみだ」


黒崎が本当にわくわくした様子で言う。


「おう、負けない…ぞ?」


自信なく、僕は答えた。

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