第五章 八月その6

「君のことはそれなりに知ってるさ」


「例えば?」


「カーリングが上手だけど、体力はイマイチ、癖はアウトターンでタイトになること」


「…カーリングのことばかりじゃない。他には?」


「…既婚者の彼氏がいる」


「…嫌味?」


「事実だろ」


沈黙。


ちょっと落ち込ませたかもしれない。


「前にも言ったけど。もっと君は同年代との付き合いで笑っり、怒ったり…そういうのが、良いと思う。それに…」


言うか言うまいかちょっと迷う僕。


「不倫ってさ、相手の家族もめちゃくちゃになるでしょ?子供は…ね。苦労するんだ」


おどけて笑ってみせる。


「本当に、君ならそんなイバラの道を行かなくても、良い恋愛できると思う」


他人の恋愛に口出すんじゃない、とか彼女は言えるはずで、僕にはどうこう言う資格はない。


それでも、何故か彼女は僕の言葉を黙って聞いていた。


「そろそろ、行きましょうか?」


気が付けば良い時間になっていた。


「ん、そうしよう」


「また、来てもいい?」


「喜んで。って言っても大した料理は作れないよ?」


「今日みたいなので充分」


「またのご来店お待ちしております」


僕はうやうやしく、頭を下げる。


「そう言えば…忘れていたわ」


「何を?」


「男の子の部屋に行ったら“そういう本”を探さすのが定番だと聞いたわ」


「どこで得た知識だそれは」


「やっぱりベッドの下なの?」


「いや、本棚に隠してあるって…何を言わす」


「本棚、ね」


とんっと二段ベッドから降りる彼女。


「お客様、お出口はあちらです」


またしても恭うやうやしく出口を案内する、僕。


「ガードがガードになってないわね。ストーン一個分見えてるわ」


「もちろん次の手も考えてあるっ」


彼女が手を伸ばすとそれを身体で阻む。


「カムアラウンド、ガードをかわすっ」


さらに横をすり抜けようとする、リューリ。


「今日の私は阿修羅すら凌駕する存在だっ」


彼女の肩を抱き止める形になる。


「ふふふっ」


「はははっ」


突然猛烈に可笑しくなって二人で笑い合う。


こういうのを。


彼女がもっと経験出来たらいい。


そんなことを思いながら。

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