第五章 八月その3

成り行きとは言え、女性を家に呼んでしまった。


僕の自宅はリューリの家の帰り道にあたるため、一旦休んでいくというのは一応筋が通っている。


リューリも特に何も言ってこないし。


問題はない、よな?


家に辿り着くといつものようにハクセキレイが出迎えてくれた。


尾羽をぴょこぴょこさせている。


「…こちら、チームメイトのリューリさん」


ぴょこぴょこ。


「…誰に紹介してくれたのかしら?」


「ハクセキレイの親方さん」


「あら、親方さんこんにちは」


ぴょこぴょこ。


そして、玄関までハクセキレイの親方は案内してくれる。


「案内してくれてる。君を気に入ったのかも」


「それはありがたいわね」


親方が風除室前で立ち止まり尾羽をぴょこぴょこさせて待っている。


そして、小首を傾げて僕をじっと見つめた。


「親方、入っていいかな」


ハクセキレイの親方は少し動きを止めたあと。


また尾羽をぴょこぴょこさせて、飛び立ってしまった。


「えっと、どうぞ」


「はい。お邪魔します」


父の自宅はかつてはペンションをやっていたということで、無駄に広い。


作りは古いのだが、築年数の割には洋風の建築がおしゃれ…だと僕は思っている。


「男所帯だから、汚いけど。一応週末くらいは掃除はしてるんだ」


風除室を抜け、玄関に入る。


玄関には、昔の名残で受付がある。


玄関は吹き抜けになっていて、玄関正面には階段が左右対称に二つ、二階に延びている。


見た目は良いのだが、冬は当然寒い。


玄関脇にの扉を開けるとやはり無駄に広いダイニング。


かつてはここで何組ものお客さんがくつろいでいたのだろう。


僕は天井に付いているファンと、扇風機を回す。


「カウンターにする?」


ダイニングからはカウンターを通して奥にキッチン…というか厨房がある。


現在料理担当は僕で最大でも二人分の料理しか作らないから、持て余し気味の施設ではある。


「…すごい広いのね」


「昔はペンションだったらしい。もちろん今はやってないけど。手はそこの洗面で洗って」


僕も手を洗ってから軽食の準備をする。


「コーヒー飲める?」


「カフェオレで甘くしてくれたら」


「オッケー」


以前僕は母にコーヒーの淹れ方を教えてもらい、なんとか淹れられるようになっていた。


ホームセンターで売っていた安物だが電動ミルでコーヒー豆を挽く。


豆はコーヒーショップで売っているカフェインレスの深煎り。


父が好きな味だと、母が教えてくれた。


僕もまだまだ苦いのは苦手なので、専ら砂糖を入れたカフェオレで飲んでいた。


電気ケトルでお湯を沸かし、プレス式のコーヒーメーカーに挽いた豆を入れる。


コーヒーメーカーにお湯を入れ、砂時計を引っくり返す。


「マスター、今日は何を出してくれるのかしら?」


「ピザトーストとベーコンにスクランブルエッグ。…ピーマン平気?」


「大丈夫だわ」


「ミニトマトは?」


「問題ないわ」


僕はトーストにピザソースを塗り広げ、チーズを乗せ薄切りにしたピーマン、ミニトマトを乗せてトースターに入れる。


その間に卵を割り、マヨネーズと混ぜ合わせ最後にチーズを入れてかき混ぜる。


フライパンを熱し、かき混ぜた卵を入れ菜箸で混ぜる。


三十秒程で火を止め皿に移す。


火を通さずぐずぐずにするのが僕の好みだった。


空いたフライパンでベーコンを炒め塩コショウ。


その間にトースターが“ちんっ”と鳴る。


トーストを取り出し、ざくざくと四つ切りにして食べやすくする。


最後に砂時計が落ちきった事を確認すると、コーヒーメーカーをプレスする。


小さじ一杯の砂糖を予めコーヒーカップに入れ、コーヒーを少量。その後牛乳を入れてカフェオレの出来上がり。


「朝ごはんみたいで悪いけど」


「…すごい手際だったわ」


トレーに料理を乗せそのままカウンター越しにリューリに渡す。


「…頂きます」


夕陽を浴びながら僕らは手を合わせて食事をした。

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