第五章 八月その2

リューリと二人、カーリング場を出て二人で並んで歩く。


『本当に何をしてるんだろう…』


僕は心の中でため息をつく。


『これに、何の意味があるんだろう…』


当初、僕は彼女に関わらない方針だった。


実際接点などほとんどなかったはずだし、なぜ数ヶ月でチームメイトにまでなっているか、説明がつかない。


そっと、僕は視線だけを動かして彼女の横顔を見る。


夕陽が当たった横顔は…悔しいが綺麗だった。


七月、野山先輩や黒崎、リューリと四人で歩いた時の事を思い出す。


あの時はリョージさんが現れてリューリを連れ去ってしまった。


今度は…。


同じようなことが起こらないで欲しいと願う。


いや、必要なのは。


必要なのは、彼女の手を取ること。


引き留めること。


そんなことを考えながら、歩いていると。


前方から白いSUVが近付いてきた。


咄嗟に、リューリの手首を掴んでしまう。


近付いてきた白いSUVはそのまま通り抜け過ぎてしまった。


『何を心配してるんだか…』


自嘲する。


「…どうしたの?」


リューリが不思議そうにこちらを見ている。


僕は彼女の手首を掴んだままだったことに気付き、慌てて手を引っ込める。


「車が近付いてきたように見えたから、危ないと思って?」


「…私に聞かれても困るわ」


少し間を置いて。


「今日は彼、仕事のはず」


リューリは付け加える。


僕は心の中を見透かされた気がして赤面する。


顔が赤いと言われたら夕陽のせいだと言い張ろうと心に決めながら。

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