第五章 八月その1

八月。


避暑地と言われる軽井沢でも、日中はさすがに暑い。


それでも午後二時くらいが最高気温で夕方には涼しくなる。


東京の、文字通り茹だるような暑さをしっている僕からすれば、まだまだ大した事はない。


その日は町内で開かれるカーリング大会の抽選会の日だった。


町内の大会とは言え、八月~十月まで二ヶ月間に渡り試合が続く。


軽井沢町内ではこの大会以外にも実に様々な試合があると、僕は知った。


同じ部活内でもチームによってはリーグ戦に参加をしているチームもある。


七月末にに僕は初めてリューリにメッセージを送り、今日の午後練習→抽選会と予定を決めていた。


午後、いつものように練習を終える。


前回、何となく気不味い別れ方をしたのでギクシャクするかと思ったが、全くの杞憂だった。


練習をしてから抽選会と考えていたのだが、予想以上に時間が余ってしまった。


あいにく、カーリング場周辺にはコンビニもなく、事前に買っていなければ食事も出来なかった。


「…プランの組み立てが甘かったわね」


「…君だって何も言わなかったじゃないか。まぁプランAが甘かったのは認める。プランBに移行しないか?」


「聞きましょう」


「…一旦家に帰る。で、軽食取ってまた来る」


「愚策だわ」


「…ぐっ」


「作戦に面白味も攻撃的精神も感じないわ」


「ならプランC」


「どうぞ?」


「僕の家で軽食して帰ってくる。そう時間はかからないし、食事も出来る」


リューリは少し驚いたように目を見張り、それから物凄く意地の悪い笑顔を浮かべた。


「面白い作戦だけど、女の子を家に誘ってるのよ?あなたの、その家族的に大丈夫なの?」


「それは大丈夫。父親は仕事だし。家には誰もいないから」


「…ふぅん」


リューリはさらに目を細める。


からかわれている気がする。


「いや。チームメイトに普段の感謝をしたいだけ。その、君をどうこうする気はない。君には彼氏がいて…」


どんどん墓穴を掘っている気がする。


「…いいわ。あなたの好意よね。受けてあげる」


そして彼女はそう答えたのだった。

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