第四章 七月その13

アルバイトをしている庭園に到着する。


もう薔薇の一番花は散ってしまった後だが、二番花が咲いている。


今日は朝に消毒でもしたのだろう。


薔薇の香り以外に消毒の臭いも混じっていた。


「よう。おはよーさん」


先に来ていた黒崎に声を掛けられる。


「おはよう」


軽く挨拶をして、朝礼場所に向かう。


「…大丈夫か?」


「いや何が?」


「昨日のリューリさん、さ。あれリューリさんのお父さんじゃないって、ハナさんが言ってた」


「…」


「六月にさ、リューリさん見掛けたと思うんだ。ここで。その時、昨日の男性と一緒だった…と思う。お前。知ってたんだろ?」


「…知ってた」


「…良いのか?」


「…良いも悪いも、チームメイトの恋愛に、どうこう言えないだろ?」


「どうこう言わなくて良いのか」


「…実は、もう言った」


黒崎が驚いた顔をする。


「相応しくないって。今思うと酷い言い方だ。そんなことお前に言われたくないって、そう言われても仕方ないよな」


少し僕は考える。


「もやもやは、してる。でもこれが恋愛感情かわからない」


僕はぽつりぽつりと言う。


「ただ、彼女の生き方には相応しくない。望めばもっと明るい未来があるだろうに」


そこだけはキッパリと言い切れる。


「リューリさんは、幸せだぞ」


黒崎がふっと笑って言う。


「今どき説教してくれるヤツなんていない。お前、熱血くんだな」


ローキックをしてくる黒崎。


「そのあだ名はサイテーだな」


僕も黒崎にやり返した。

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