第三章 六月その10

きっと本当は彼女を叱りつけて、いろいろ止めさせるべきなのだと思う。


彼女に責任を持てる者が。


それは両親や、親友や彼女を想う男友達。


僕は?


自分に問いかける。


例えば僕が彼女に想いを寄せる男だったら。


激しい感情をぶつけてみてもいい。


でも、自分は違う。


一度や二度話をしただけの僕に何が言えるだろう?


「…僕に言えることは、君にはもっと明るい恋愛をしたほうがいいってこと。もっと普通の。君が子供ってバカにする男の子達と。君なら黙っていても、もっと良い恋愛が出来るよ」


リューリはふぅっと息を吐き出した。


「…わへいに話して良かったわ」


「何もしてないけどね」


「…色々話す手間が省けたわ。頭の回転が早いのかしら?」


「話を聞いても責任を持てないから、想像で話しただけだよ。間違っているかもしれない」


「合ってるわ。たぶん。私…私ね…」


彼女が言い淀む。


「彼になら…抱かれても良いって考えたわ」


『ドンッ!』


僕は自分自身で驚く程、机を叩き、立ち上がっていた。


そして思い切り彼女を睨んだ。


彼女が驚いた顔をする。


「ここは介護施設のラウンジで、こんな話をする場所じゃない」


違う。言いたいことが違う。


自分を大事にしろ、とかもっとよく考えろ、とかそういうことが言いたかった。


ただ、この感情を表現出来なかった。


しかし、僕の憤り、言いたいことは彼女に伝わったようだった。


「…そうね。だいぶ話しちゃったわね。今度はその冷たい“あたたかーい甘酒”私に奢ってね」


「もちろん。だから…」


ぐっと自分の手を握る。


「だから、また話してほしい。その、何でも言ってやるから」


彼女がふっと笑う。そして僕は付け加える。


「…ただ、場所は…選ぼう。介護施設で…その周りから見たら痴話喧嘩は…」


言いながら僕は自分の顔が赤くなるのが分かる。


「どんな青春あおはるだよ」


彼女が堪えきれずに笑い出した。

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