第三章 六月その2

練習試合はやはりというか、予想通り僕らが不利の展開が続いた。


カーリングはハウスという円の中心にどれだけ近付けるかの勝負となる。


一番中心に近いストーンをNo.1と呼び、そのチームに得点が入る。


例えば赤チームのストーンがNo.1なら赤チームが1点。


この場合相手の黄色チームには得点は入らない。


必ず△-0となるのがカーリングだ。


またNo.2が同じく赤チームだった場合は赤チームが2点となる。


ここで黄色チームのストーンがNo.3だった場合は赤チーム2点、黄色チーム0点となる。


またNo.1が赤チーム、No.2が黄色チームだった場合は赤チーム1点、黄色チーム0点となる。


カーリングは後攻が圧倒的に有利と言われるのは、後攻チームが最後の一投でNo.1となれば少なくとも1点は取れるためだ。


だから先攻チームとしては後攻チームに最低限の1点を“取らせる”展開は理想的と言える。なぜならカーリングの先攻後攻は野球のように順番に回ってくるのではなく、得点したチームが次の不利な先攻と決まっているからだ。




僕らは後攻で1点を取らされ続けた。


それも危機的な状況で最後の黒崎がなんとか決めて1点という展開。力の差は圧倒的だった。




カーリングでは四人を一つのチームとし、それぞれが二投ずつ、合計八投する。


これを先攻の一番目リード一投目、後攻の一番目リード一投目、先攻の一番目リード二投目、後攻の一番目リード二投目…と繰り返す。


僕はリードとして一番最初にストーンを投げている。


投げているのだが、これが黒崎の指示通りになかなか投げられない。


段々と鬱々としてくる。


すると。


「わへい!笑顔が足りない!逆境で笑ったもん勝ちだ!」


隣のシートから野山先輩の檄が飛ぶ。


自分も試合しているだろうに、こちらを気にしてくれているのか。


『敵わないなぁ』


ふぅっ、と息を吐き呼吸を整える。


先輩との練習を思い出しデリバリーの手順を確認する。


『見てろ、野山先輩直伝、未練たらたらリリース!』


ストーンに想いを込めそっとリリースする。


黒崎の指示した場所にストーンはピタリと止まった。


「ナイスショット!」


例の中学生が敵チームなのに誉めてくれた。


「今日一番だぞ!わへい」


黒崎が叫ぶ。


僕は手をひらひら振って応える。


そして僕らは圧倒的だが、気持ち良く負けたのだった。


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