第二章 五月その9
声のした方に顔を向けると先程の彼女が立っていた。
腕を前に出し中世の騎士のようにブラシをつき、その上に両手を重ねている。
背筋はぴん、と伸びとても絵になる姿だった。
「リリースの瞬間はこう、スーッとスキップのブラシに吸い込まれるように、ブラシに向かっていくのよ。鳥が羽ばたくようにふわりってね」
ひょっとして僕に向かって話しているのだろうか?
「そいつの言葉は聞くんじゃないぞ。毒にしかならん」
スーッと野山先輩が滑ってきて言った。
「毒とは酷い言われ方だわね」
「真実だ。お前みたいな天才肌の言葉は同じ天才肌の人間にしか通じないさ。感覚的すぎる」
野山先輩の言おうとしていることは分かる気がした。
確かに一流のプレーヤーが一流のコーチかと言うと、当てはまらない場合もある。
世の中には教える事に特化した人もいるのだ。
野山先輩の教え方は確かに独特だが、具体的で分かりやすかった。
「りゅうり先輩、次はどうします?」
先程の中学生らしい男の子がおずおずと話しかけてきた。
どうやら目の前の彼女は“りゅうり”と言うらしい。
…どういう字を書くのか、全くイメージできなかった。
「わかったわ」
りゅうりと呼ばれた彼女は手をひらひら降って男の子に向かって行った。
「こっちも続きな。次はミニゲームするか」
野山先輩の言ったミニゲームとはハックの目の前にあるハウスを使ったものだった。
「今回はどこから投げてもいいぞ。大切なのは次の一手をどうするか、その次はどうするか、考えること」
確かに目の前にハウスがあるので、僕のように狙い通りにストーンが投げられない人間でも戦術の勉強になった。
本当に、いろいろ考えてくれてるんだな。
僕はこのちょっと変わった先輩に教えてもらえることを感謝した。
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