第二章 五月その10

先輩との練習後、僕と野山先輩はカーリング場の2階にいた。


そこは円いテーブルと椅子のセットが20セット程置かれているスペースになっていた。


ここから下のカーリングホールが見えるし、時にはカーリング後の食事会なども行われる場所だった。


僕と野山先輩は自動販売機前に並んだ。


「…なにがいいですか?奢りますよ。授業料代わりです」


「…じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」


僕が硬貨を入れると先輩はトマトジュースのボタンを押した。


「…珍しいもの買いますね」


「ここのは飲みやすいんだよ。汗もかいたし」


先輩が僕の前に出て屈み、トマトジュースを取り出す。


練習後に着替えたのだろう。僅かな制汗スプレーの香りがする。


僕も試しに野山先輩と同じトマトジュースを買う。


「一時間でも疲れますね」


「今日は二人だからな。実際どうだった?」


「とても分かりやすかったです」


僕が言うと野山先輩はトマトジュースを飲みながらふむ、と首肯く。


「今日のは試しみたいなものだったからな。これが大丈夫なら次は友利も誘ってやるか」


「…僕は練習の練習台ですか」


「私も初心者に教えるのは経験が少ないんだよ。わへいなら、普段から教えてて教えやすかったからな。何かやってただろう?」


「…剣道をやってました」


先輩は、またトマトジュースを一口飲むとやはりふむ、と首肯く。


「先輩が教えてくれたことを自分なりに剣道に変換して、理解してました。…戦術はさすがに無理ですが」


「…そうか今度は私も剣道やってみるかな、いや無理だな。止めよう(ヾノ・∀・`)」


自分で言い出し即否定する、先輩。


そしてタブレットPCを取り出す。


これは先輩からの挑戦のサインだ。


「新しいデッキを組んでみた。今度はこちらの練習台になれ」


「…望む所です」


僕も携帯を取り出す。


「楽しそうね。私も混ぜてくれない?」


その声を聞いて野山先輩がまた嫌そうな顔をした。

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