第二章 五月その8
「なんだ。お前も来てたのか」
野山先輩が横目でちらりと見ただけで本当に面白くなさそうに言う。
「…相変わらずだわね。そちらはお友達?恋人?」
「…ゲーム仲間」
即答。
そこはせめて“部活の後輩”ではなかろうか。
結局、野山先輩が紹介してくれないので僕もぺこり、と頭を下げるに留める。
彼女の後ろにいた中学生らしき子達も頭を下げる。
「とりあえず三往復な」
先輩が言うと僕もふらふらしながらシートを滑る。
ぴん、と張り詰めた空気の中でストーン同士がぶつかる音が響く。
往復しながら、僕は平常心を取り戻していく。
次いでフォームの練習。
両手をアイスにつき、ハックを蹴る。
次は両手に何も持たず足のみでバランスをとりながら。
蹴り出した瞬間にふらついても、僕は体重移動でバランスを保てるようになっていた。
「進歩したねぇ」
野山先輩がぽそり、と褒めてくれた。
続いてデリバリーの練習。
驚いたことに先輩は今日の練習メニューを考えてくれたようだった。
先輩が少し先でブラシを立てる。
そこを目標にストーンをリリースする。
「ストーンをリリースした後ですぐに立とうとするなよ。転ぶぞ。それよりも見送るんだ」
言われた通り僕はストーンをリリースした後、そのままのフォームでストーンの軌道を見守る。
「ストーンをリリースするときは未練たらたらでリリース。別れた彼女の遠ざかる背中に声を掛けたいけどかけられない、手を差し出しながらそんな気持ちでそっと見送れ」
野山先輩の言葉を要約すると、リリースした際、自分の手がきちんとスキップが指示したブラシに向いているか最後まで確認しろ、ということらしい。
「相変わらずハナの教え方は独特だわ」
隣のシートからくくくっと笑い声が聞こえる。
見ると、先程の彼女が立っていた。
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