第二章 五月その7

日曜日。


僕はいつもより早起きし、仕度を整える。


『カーリングだし、変に気を遣わなくていいよな?』


いろいろ考えたが結局いつものジャージにした。


『…相手は野山先輩だ。気張ることもないよな?』


…さっきから僕は誰に言い訳をしているのだろうか。


「…なんだ、わへい出掛けるのか?」


父がいかにも休日のお父さんスタイルで顔を出す。


「カーリングの練習行ってくる。フライパンにスクランブルエッグあるから。トースト焼いてね。んじゃ行ってくる」


バタバタと家を出る。




先輩の家と言っても実は正確な場所は知らない。


いつもの別れ道で僕は先輩を待った。


携帯からメッセージを知らせる音が鳴る。


先輩からだった。


“(=_=)”


『…いま起きたのかな?』


「…ぅぅおはょぅす」


「うわわ!」


携帯から顔を上げると先輩が立っていた。


地獄の底から這い上がってきたゾンビのような声だった。


「…誰だぁーれがゾンビか」


しゅっと先輩を指差す僕。


「土曜だからってゲームやりすぎでは?」


「…誰だ!こんな休みの朝からカーリングやるやんて言い出したヤツはo(*`ω´*)o」


しゅっともう一度先輩を指差す僕。


僕らは連れ立ってカーリング場に向かった。


先輩はいつものジャージとお馴染みのキャスケット、ヘッドフォン、タブレットPCという出立ち。


それにカーリングブラシを肩に担いでいる。


なんでいつも先輩がキャスケットを被っているか、なんとなく分かった気がした。


恐らく髪の毛すら、ろくにとかしてはいないのだろう。


カーリング場に到着すると先輩が受付で手続きをする。


どうやら事前に予約していたようだ。


「後で千円な。それからレンタルは自分でな」


僕も受付でシューズとブラシのレンタル代を払う。


二人で連れ立ってカーリングホール内に入る。


…なんだか緊張してきた。


しかし先輩は全くこちらをいしきしている様子はない。




ホール内では何組かすでに練習していた。


中にはテレビでみたことがあるカーリング選手もいる。


僕らは一番端のシートに陣取った。


お互いに準備体操を始める。


「あら、ハナじゃない?」


野山先輩が話しかけられる。


そこには中学生くらいの男の子と女の子、それに僕らと同じ年くらいの女子。


艶々した黒と金色の混ざった長い髪。つり上がった目尻。


何度かカーリング場で見かけた彼女が、そこにいた。


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