第二章 五月その5

何回か練習を重ねて、改めて黒崎が上手だということが分かった。

ある日、ふと黒崎になぜこのチームにいるのか聞いてみた。

彼ならむしろ、高校の部活ではなく、もっと活躍出来る場があるのではないか、と。

「僕がここでカーリングやってる理由?」

ちょっと不思議そうに黒崎が反応する。

「黒崎ならもっと…別でカーリング出来るんじゃないか」

「…僕はカーリングが楽しく出来たらそれで良いさ」

とのことだった。


カーリング場からの帰り道、同じ質問を野山先輩にもぶつけてみた。

「…黒崎がうちでカーリングやってる理由?」

「なんでうちなんかでカーリングやってるんですかね」

「うちなんかで悪かったなo(*`ω´*)o」

「…失言でした」

そういえば五月になっても野山先輩はキャスケットを被っている。ひょっとして年中被っているのかもしれない。

「あいつとは中学で一緒だったけど…まぁ家庭の事情かな」

そういえば黒崎は週に何回かは部活を休んで帰宅していた。

「小学生の妹を迎えに行ってるんだ。優しいヤツだろ?」

相変わらず首からタブレットPCをぶら下げながら野山先輩が言う。

「才能があることと、一流になれることとは違うさ。原石は磨ける環境がなければ光らない。アイツ頭良いから。分かっちゃったんだよな。きっと」

「それで楽しむ方にしたんですか」

「だからお前達なんかのチームを引き受けたんだろ」

野山先輩は“なんか”の部分に力を込めて言う。

「どのスポーツも同じでしょ?皆がプロになれる訳じゃない。どっかで線を引く。そこから先は…何かしら理由を見付けてやっていくんじゃないか?おっと、プレイヤーにダイレクトアタック!私の勝ち!」

「…負けました」

僕は携帯から目を離す。

「ちょっと取っ付きにくいけど本当に良いヤツなんだ黒崎アイツ。友達でいてくれると嬉しい」

「…もちろんですよ」

僕は暗くなりかけた空を見ながら答えた。

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