第二章 五月その4

チームが決まった後、僕らはチームとしての練習をするようになった。

友利がふらふらとしながらストーンをリリースする。

カーリングを始めて一ヶ月。まだ安定しないのだ。

…それは僕も同じだが。

同じくふらふらしながら僕は友利のリリースしたストーンを追いかける。

「…7!!」

僕はストーンの滑走速度ウェイトを見ながら反対側のハウスにいる黒崎に叫ぶ。

ちなみに反対側ハウスの中心が7。そこから(ストーンをリリースする側から見て)奥に向かって8、9、10と数字で呼ぶ。

また中心の7から手前側に向かって6、5、4、3、2、1と呼ぶらしい。


そういえば動画サイトのカーリングの試合を見るとスイーパーが「3!」などど叫んでいた。

僕の予想は“7”つまりハウスの真ん中に止まると予想したのだ。

しかし段々自信がなくなってくる。

「…6!…いや5?…4!たぶん4だ!間違いなく3?」

「どこだよ!!」

黒崎が笑いながら叫ぶ。

実際ストーンがどこら辺に止まるかなど全く分からない。

そんなことはストーンに聞いてくれ、と言いたい。

分からないが、とにかく予想してみろ、というのが黒崎からの指示だった。

「ウェイトなければイエス!」

黒崎から指示が飛ぶ。

旭先輩が猛烈にスイープを始める。

「ふぁぁぁいやぁぁぁ!すぅぅぅいいーぷぅぅぅぅッ!!」

…無意味に叫びながら。

「のぉぉぉぉぉ!」

僕も連られて叫びながらスイープをする。

「全然足りないぃぃッッ!」

「ハウスまで届かない!」

「わへい君、旭先輩ゴメ~ン!!」

遠ざかっていく友利の情けない声。

ストーンはハウスには届かずかなり手前で止まる。

「ナイススイープ!」

黒崎が言うが、それに対して手を挙げて答えるのがやっとの僕。

とりあえずカーリングなんて、ブラシでごしごししてれば良いとか思っていたが。

これを試合中、何エンドも繰り返すのだ。

これはキツい。

練習相手の女子がストーンをリリースし、続いて友利の二投目。

「うわぁー」

また情けない声を出して友利が転倒する。

ウェイトはさっき以上に、ない。

「イエ~ス」

黒崎が笑いながら指示を出す。

「友ぅぅ利ぃぃぃ!!」

「ごめ~んて!!」

またも猛烈にスイープする、僕であった。

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