未完

@shironeko8

第1話

マンションの階段を降りると、急いで角を曲がる。

太陽と月が同時に視界に存在する時間。


かじかんだ指で煙草を挟むと

ゆっくりと煙を吐き出した。


きんっとした空気の中で、白くまぁるくなる煙を見て、「あぁ、生きてる」と思う。


冷たい空気の中で、水を得た魚のように私は息をする。


これから乗る満員電車も、慌ただしく流し込む大手町の朝のコーヒーも、憂鬱の始まりの月曜日であることさえも、全て忘れることの出来る一瞬。


すべての期待から解放される一瞬。



私は常々考える。


普通であることは難しい。

じゃあ普通って何?とか、普通も時代の変化で変化する、とか、ビール片手に御託を並べるやつもいるけど、糞食らえだ。


普通は普通だし、おおよそ世の中のマジョリティが理想としている庶民の暮らし、その様相が普通だ。

私が思うにここ数十年、その普通に大した変化はないはずだ。


私は「普通」に失敗した。


自分の責任だ。


何の為に生きているのか、この先に何を期待すればいいのか、分からない。


失敗して、見失って、それをやり直す勇気もなく、かといって今すぐ自分を終わらせる勇気も到底ない。


だから、緩やかなる自殺をするのだ。


それは日々着々と、ゆっくりと私を殺してくれるはず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未完 @shironeko8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る