第5話 創造主、作った異世界に初来訪する


 第一の異世界『アルターティア』の歴史が本格的にスタートした。

 擬似太陽も周回するので、地球のような四季がない以外は24時間365日、全く同じ仕様になっている。熱があれば雲もでき、気候も発生する。各地の世界樹が魔素と一緒に循環をするのだ。


 アルターティアは今、1日に100万年の時を刻んでいる。

 最初は俺も頭脳室に入り浸っていた。10日程度たったころ、もしゃもしゃもしゃ!と各地に植物の繁栄を示す緑色の領域が広がっていったりする様子が一番見応えがあったな。やはり植物はすごい。





 さて、俺はというと、アルターティアを満喫するための準備に明け暮れていた。

 イヴと一緒に寝室のベッドで向かい合うように寝っ転がり、冷たいリンゴジュースのはいったグラス、紙とペンを前にうーんと悩み声。


 アルターティアで遊ぶ! と決めたとき、程よく快適で程よくチートに行こう、と決めていた。


何もかも思い通りになるようであれば、きっとすぐに飽きてしまう。

指一本で倒せる敵に、一瞬でそろってしまうコレクションに何の価値がある?

苦難を愛すことが、一番その世界を満喫する方法なのは間違いない。


 だが、締め切られて狭く蒸し暑い部屋の中でするゲームは勘弁してほしい。

 どんな敵、状況にでも工夫すれば逆転を見いだせるたくさんの手札も持っていたい。

 だから、そのための便利なスキルはあらかじめ覚えていくつもりだった。

 チートリンゴのせいで前から強化されてしまっている部分は仕方ないと割り切る。


「私はシンヤ様についていきますけどオペラはお留守番ですよね? お土産はどうしますか?」

 くぴくぴリンゴジュースを飲みながらイヴが言う。

「あー確かに。【アイテム収納】は必須だよな」

指定したアイテムを自動で収納し、分解し、整理し、数量を管理してくれる。触れるのが気持ち悪いものもあるだろうし。植物を収集したり食料を持ち歩くためにも保存機能も時間停止しているのが望ましい。

 そんな感じで、俺が持っていこうと思っているスキルはこんな感じだ。


・【アイテム収納(イヴ、オペラと共有)】

・【ステータス】

・【マップ】

・【鑑定】

・【自動翻訳】

・【感知】

・【クリーン】

・【スキルコピー】

・【レベルアップボーナス】

・【クエスト達成ボーナス】

・【転送】

・【隠蔽】


 自動翻訳まではお役立ち機能。それから下は快適重視の冒険技能だ。

 感知は一言でいえば遠くの誰かの存在を察したり、見えないものが見えるようになったり、探したいものを探しだすときに便利なスキル。

 クリーンは身体や衣服、場所をきれいにするスキル。

 技能コピーは、いわば高精度な物まねだ。物はアイテム収集で持って帰れるが技術は持って帰れずお土産にできないから、というイヴの談になるほどと思って取り入れた。

 レベルアップボーナス、クエスト達成ボーナスはアルターティア生活をより楽しむために導入を決めた。

簡単に言うとレベルアップボーナスはレベルアップするたびにスキル技能を上げるポイントがもらえる。

クエスト達成ボーナスは勝手に課題を用意してくれるのでそれをこなせばランダムでスキルがもらえる、というものだ。

スキルコピー、を含め、たくさんのスキルを手に入れコンプリートを目指すには、いろんな場所を訪れ、いろんな人や生き物に出会い、課題をこなさなければならない、というふうになる。まさにアルターティアを隅から隅まで満喫するのに最適な組み合わせだと思う。

 転送は、世界樹に戻りたいときに戻る転移機能、物や人をどこかに送るときの転送機能を併せ持ったスキルだ。最後の隠蔽はステータスとスキルを偽るスキルである。


「おおむねこんな感じかな。これだけあったら十分だろ」

「ですねっ! 早くアルターティアに行きたいです」


 オペラからエロ系を抜いてもらった電子コミックを共有してもらっているイヴは、今回はファンタジー系の進化を遂げてる可能性が高いことも知っている。勇者と魔王系のネタが今の彼女の創作ロマンのブームなためか、相当楽しみなようだ。


「あとは向こうに持って行っておきたい日用品とかを製造区画にたのんでおくだけか。そのあたりはイヴに任していいか?」

「わかりました。目録ができたらお見せしますね」

「お願いな」


じゃあ俺はまた種もってお願いしに行くかー。


「えへへ」

「んん? どうした」

「最近のシンヤ様、楽しそうで私も楽しいです」


 うるさいよ、とイヴのおでこをデコピンでお返しした。

 ドキリとさせてくるな。






1カ月と少し経った。

オペラから、最初の知的生命体の王国が出現したと連絡があった。

 

「またせた。どこだ?」

「オペラ」


 連絡をよこしたオペラのいる頭脳室へ、アルターティアでの練習も含め、森から直接転移して駆けつける。最初は失敗して大事故になるのが怖かったがマップ機能と一緒に組み合わせて使うことでリスク回避できるようになったのだ。


「お待ちしてました。今アルターティア・ジオラマの時間加速は止めております。どうぞこちらに」

 オペラに問題の地点がよく見えるという位置を譲ってもらう。


「どのあたりだ?」

「はい、ちょうどこの辺りです」




https://31552.mitemin.net/i432769/



 操作をしながら、オペラは木製の差し棒でジオラマの中心部を差してみせる。

 だがかろうじて森や草原を切り開き緑の画用紙の中に色鉛筆でつついたように虫食いになっているだけのように見えるだけだ。月以上地球未満の地表を3×3メートルに縮尺してるジオラマだから仕方がない。


「ジオラマを使いやすいよう拡大機能を開発します」

「頼む。でも今回はもう行った方が早いな。オペラ、悪いけど次回でいいよ。用意したらもう行く」

「承知しました。行ってらっしゃいませ、マスター」

「おう!」


 居ても立っても居られない。俺はイヴを連れて、自室に転移。

 俺とイヴは冒険用の装備に着替えた後――といっても向こうの文化レベルがわからないので、長袖長ズボンに革っぽく見えるファイバー製長ブーツと肩掛け鞄で。イヴは白ベースの法衣もどきワンピースとケープである――マップを使ってすぐに転移した。



 シュン――。


 世界樹内の転移と違い、わずかに幕を通り過ぎたかのような違和感の後、俺たちはアルターティアの地面を踏むこととなった。


「あっ――……」

「大丈夫か」

「すみません、シンヤ様。一瞬だけ体の力が抜けて……もう大丈夫です」


 イヴも同じものを感じたのだろうか。俺よりも影響が大きかったのかよろけてしまい、慌てて抱きとめる。


 林から開けた平原に続く街道、と思しき場所に出た。丘の上あたりらしく、視線を道なりに下ろしていけば徒歩30分ほど続いた平原の先に、大きな石造りの街壁が見える。そのさらに後ろには城壁、そしてお城がそびえたっている。

 地球史に比べはるかに建築的な技術が高く感じるのは、やはり魔法の存在のせいだろうか。ピラミッドのような巨大な石造りの建築でさえ、土魔法があれば一発ではあるし。


「……さーて。まずは現状チェックとしよう。【ステータス】」


 ゲームのメニュー画面のように、俺の目の前にアルターティア内での初ステータスが表示される。


◆=======================

◆名前:シンヤ

◆種族:人間

◆年齢:24歳

◆性別:男

◆レベル:1(次のレベルになるまで12)

◆体力       520

◆魔力       382

◆筋力       106

◆防御力      455

◆器用度      62

◆敏捷力      84

◆魔法力      392

◆退魔力      491

◆健康状態     100

◆運        34

◆魅力       53

◆武勲       0

◆◆スキル

◆【スタミナLv.9】【万病耐性Lv.9】【不老不死Lv.9】

◆【魔法作成Lv.9】【魔法行使Lv.9】【回路魔術Lv.9】

◆【アイテム収納(イヴ、オペラと共有) Lv.9】【ステータスLv.9】

◆【マップLv.9】【鑑定Lv.9】【自動翻訳Lv.9】【感知Lv.9】

◆【クリーンLv.9】【スキルコピーLv.9】【レベルアップボーナス】

◆【クエスト達成ボーナス】【転送Lv.9】【隠蔽Lv.9】

◆◆種族固有スキル

◆なし

◆◆称号

◆『神』『遭難者』『創造主』『世界樹のあるじ』『リンゴ好き』『魔法の始祖』


んんんんん?

創造世界でのステータスとちょっと違う表示内容だ。

レベル表示。スキルもLv.なんて表記は向こうでは無かったのにな…。この世界に合わせて変化したのかな。

 あと最後の称号ってなんだよ。ステータスには影響はないみたいだが『神』はさすがに直球すぎる。

 【隠蔽Lv.9】で反射的に、第三者から見て危なそうな表記は全部オフにした。

 チートリンゴで体力系と魔法系の基礎ステータスは軒並み伸びて数字の並びがいびつなのはしょうがないから無視して、スキルはレベルを全部落とし、数も減らして……と。


◆レベル:1(次のレベルになるまで12)

◆体力       520

◆魔力       382

◆筋力       106

◆防御力      455

◆器用度      62

◆敏捷力      84

◆魔法力      392

◆退魔力      491

◆健康状態     100

◆運        34

◆魅力       53

◆武勲       0

◆◆スキル

◆【アイテム収納Lv.2】【ステータスLv.2】

◆【マップLv.1】【鑑定Lv.1】【自動翻訳Lv.1】

◆◆種族固有スキル

◆なし

◆◆称号

◆なし


 よし、こんな感じで。ステータスを隠蔽するかどうかはこの世界の人間の標準を見極めてからにしよう。


「イヴも一応見せてもらえるか」

「はい、わかりました……【ステータス】」



◆=======================

◆名前:イヴ

◆種族:ハイエンシェントエルフ

◆年齢:5歳

◆性別:女

◆レベル:1(次のレベルになるまで300000)

◆体力       68

◆魔力      182

◆筋力       21

◆防御力       34

◆器用度      52

◆敏捷力      56

◆魔法力     102

◆退魔力     151

◆健康状態    100

◆運       67

◆魅力      108

◆武勲       0

◆◆スキル

◆【アイテム収納(シンヤ、オペラと共有) Lv.9】【ステータスLv.9】

◆【マップLv.9】【鑑定Lv.9】【自動翻訳Lv.9】【感知Lv.9】

◆【クリーンLv.9】【スキルコピーLv.9】【レベルアップボーナス】

◆【クエスト達成ボーナス】【転送Lv.9】

◆◆種族固有スキル

◆なし

◆◆称号

◆『神』『無垢』『原初のドライアド』『創造主のしもべ』『おはなしエルフ』


 イヴも似たような感じになっていた。

種族名……ハイエンシェントエルフ? 創造世界ではドライアド表記だったのに。

まぁいいか。一応……そうだな……エルフってことにして……



◆=======================

◆名前:イヴ

◆種族:エルフ

◆年齢:5歳

◆性別:女

◆レベル:1(次のレベルになるまで300000)

◆体力       68

◆魔力      182

◆筋力       21

◆防御力      34

◆器用度      52

◆敏捷力      56

◆魔法力     102

◆退魔力     151

◆健康状態    100

◆運       67

◆魅力      108

◆武勲       0

◆◆スキル

◆【アイテム収納Lv.2】【ステータスLv.2】

◆【マップLv.1】【鑑定Lv.1】【自動翻訳Lv.1】

◆◆種族固有スキル

◆なし

◆◆称号

◆【おはなしエルフ】


これでよしと。

おはなしエルフは可愛いからそのままにした。


「ありがとうございますシンヤ様。このまま向かいますか?」

「そうだな。今日はあの中で宿も取らなきゃいけないし急ごう」


 あ、お金ってどうしよう。








 10数分後。


「ああ、なんと神々しい……!」


 外壁の門までたどり着いた俺たちは、なぜか兵士たちや身なりの良い人々に傅かれながら祈りをささげられ、身動きが取れなくなっていた。


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異世界作成計画 一人は寂しすぎるのでチート創造してたらいっぱい異世界が生まれました。 ミロク大爆発 @miroku_crash

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