第4話 プロジェクト・アルターティア
早く完成させて異世界生活を楽しみたい、見てみたい。
そんな思いで急ピッチに仔細が詰められていくことになった。
第一の異世界『アルターティア』のコンセプトは、MMOファンタジーだ。
俺発案で、ゲーム的な、力やHPなどのステータス、経験値を世界の根幹に置くこととした。アルターティア区画の周りに強力な結界を作り、アルターティアの区画内では、万物が絶対的強制的にこの仕様を適用されることとなる。
どんな世界になるかどうかはわからない。でも最初に作る世界なのでまずは変な横やりも入れず、その結果も含めて楽しめたらなと思う。
魔法は絶対に入れたい。
オペラにそう話すと、アルターティア内に魔素循環用の世界樹を数本用意し、魔力の元となる魔素をひたすらアルターティアの世界全体に散布、循環させ続ければいいとのことだった。
『無限に魔素を生み出すリンゴ』を生み出し、アルターティア内に適量満ちるまでの散布を地形担当のオペラに任せる。
生物たちの魔力の素養については、生物的な進化の中で勝手に獲得してもらうこととした。
元の創造世界は地球と環境がほぼ一緒でリンゴでも食べない限り魔力など存在しないので、地球で人間が酸素を吸って生活しているのが当たり前なように、彼らはプラスαで魔素も日常的に吸いながら生活することになる。
適応進化の中で自発的に進化していくだろう、とオペラは言っていた。
というかそもそも、魔素自体がチートリンゴ由来のトンデモ元素に他ならない。
俺は願いをかなえるリンゴの力によって『魔素が体の中から出てくる』『魔法が使える』『魔法がうまく扱える』という結果が先にあるだけで、段階的に魔力、魔法を獲得したわけじゃないのだ。だってこの創造世界に魔素なんて元は一粒たりともないのだから。文字通り『神様が使う魔法は人間が扱えるとは限らない』というわけだ。
後忘れがちだが、生物以外も魔素によってその本質が変化することを期待できることだ。地球世界のゲームで定番の『魔力に親和性の高い金属』と言えばミスリルだが、そういう金属も当然のように生まれるだろう。
その間俺は時空魔法の開発にいそしんだ。
理由は単純で、早く生命が生まれている段階に行きたいからである
地球でさえ40億年近い歴史が必要だったのだ。だって、この創造世界で40-50億年分体感時間で待つにはあまりに長すぎる。
仕様としてはアルターティア区画だけ時空魔法で時間の流れを加速させ、こちらの24時間がアルターティアの100万年に相当するようにした。あとは自発的なアルターティア内の生命の文化に任せることとする。オペラの予測では最速だと、創造世界の時間でいう半月程度くらい経てば知的生命を見つけられる可能性があるらしい。
世界全体を上から俯瞰できるジオラマのようなものを作れば変化も楽しめそうだ。
オペラが大々的に工事を進める中、俺はイブと一緒にジオラマのプロトタイプの設計に明け暮れることとなった。
あっという間に1年がたち、尋常でない数、累乗的に巨大化していくドライアドが作業を進めた結果。
「おおお、それっぽくなってきたな」
俺たちは頭脳室の一角で、アルターティア3×3メートルの縮尺巨大ジオラマをティータイムがてら見下ろしていた。
山あり谷あり海あり平原ありの、世界地図となっていた。
ジオラマの3点に立つ、小指程度の樹木。これがこの世界における世界樹だ。
一番大変だったのが土壌作りだ。
創造世界の謎砂。これは魔法が作用せず、無効化してしまう性質がある。アルターティアの結界も魔法由来の物なので当然結界を無効化してしまう。下手すればこの謎砂を掘り進められればアルターティアの結界を抜けられてしまうのだ。だから謎砂にはアルターティアの住人が触れないようにしなくてはならない。
だからドライアドが掘った。それはもう掘りまくった。
世界樹の南方で進めていた地下調査拠点の大陸級ドライアドを増産、動員し半年をかけてがっつり砂が撤去された。結果、水深5千キロの真水の水たまりができた。
続いて謎砂を最下層として、その上に尋常でないほどの量の岩石づくり、土づくり、海づくり。
アルターティア予定地に土壌に最適な鉱物、土、その他元素を放り込み、時空魔法でつないだジオラマからの遠隔操作で混ぜ混ぜする。(アルターティア結界内から見れば巨大な木のシャベルが天から下りてきて、反響し悪魔めいて聞こえる笑い声とともにがっさがっさと混ぜている様が見れた)
珍しい鉱石は巨大隕石飛来に見立て、土壌が落ち着いてきたころに高速で地表にたたきつけまくることで天変地異が起きたかのようにした。結界内で大量の水が蒸発し、地表も溶解するほどの地獄絵図になった。
様相が落ち着いてくると、そろそろ大陸と海が分かれて見えるようになってきた。
生体の研究も進み、分子生体から単細胞生物までの生成を可能にしていたのでそれらを散布し、あとは魔素循環、環境をコントロールする機構をもつ小世界樹を数本植えて、完成である。
「あとは時間を進めるだけってことだな」
オペラによって完全に完成したジオラマを見渡す。
見る限り、もう作業していた大陸級ドライアドも大半が撤収中だ。ところどころに世界樹が地表丸出しの大陸に突き刺さってるだけであとは水たまり、といった風な荒れ果てた様子である。生命のスープづくりは完了。あとは待つだけとなる。
「世界樹にはそれぞれ管理者を置きます。私、マスター、イブを頂点として、3樹の管理者。彼らにはそれぞれ権限の範囲内での配下を作ることを許可しました。これから生命誕生、人類誕生までの長き時を彼らに見守ってもらいます」
3樹の管理者にもアルターティアの世界のことは錯覚してもらう予定だとオペラ。
異世界作成計画の詳細は伝えず、姿かたちもおぼろげにしか覚えていない創造主から世界の管理、意地を任された程度にすることで、いつか3樹の管理者をも超える存在が出てきた時のための情報統制を容易にするためだという。
彼らも含めて俺たち創造主はミステリアスな存在として想像を膨らませてもらうわけだ。
「管理者でも止められない敵。世界の行く末が勇者様に託されるわけですね!」
最近顕著に創作ロマン道を進み始めたイヴが、目を輝かせる。
そんな奴らが出てきた時点で俺たちが直接間引きに行かないといけないぞ。
完成したその日、俺たちはジオラマの横にテーブルセットを作り、三人でささやかな祝杯を挙げた。
乾杯と一緒に、ジオラマについてある時空魔法のスイッチをオン。
ようこそ生命、アルターティアへ。
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