恋する乙女の応援団

雨世界

1 頑張って。負けないで。

 恋する乙女の応援団


 プロローグ


 頑張って。負けないで。

 

 本編

 

 あのさ、恋をしようよ。


「ほら、早く。さっさと行ってきなよ」

「ちょっと待ってよ。まだ心の準備が……」


 学校の廊下の隅っこで、二人の女子生徒がそんなやり取りをしている。

 二人のいる廊下の先には、三人の男子生徒がいた。


 その三人の中にいる一人の生徒に、その女子生徒の一人が、今から、恋の告白をしようと思っていたのだった。


 でも、勇気がでない。(可愛い封筒を買って、わざわざ睡眠時間を削って、頑張って恋の手紙まで書いてきたのに)


「今、告白しないときっと一生告白なんてできないよ」

 そんないい加減な脅しを友達は言う。


「……うん。わかった」女子生徒は言う。

 でも、足がでない。


 どうしても前に進んでくれなかった。


「ほら、早く。ほらほら」

 友達が(面白がって)女子生徒の背中を押している。

「ちょっと待って。待ってってっば」

 女子生徒は足を思いっきり踏ん張って、自分の体が廊下の曲がり角から、絶対に外に出ないように頑張っている。


「もう、頑張っているところが違うでしょ!」

「だって……」


 二人がそんなやり取りをしていると、廊下にいた三人の男子生徒はなにかを話し合ったあとで、ちらっと二人のいるところを見ると、それからその生徒のうちの一人が、歩いて二人の隠れている廊下の曲がり角のところまでやってきた。


 うわ、やば。と二人は思ったのだけど、逃げられなかった。(なんとなく、どうしよう? とか言って、ちょっと混乱してしまったのだ)


「あの、さっきからちらちらとこっちを見ていたみたいだけど、僕たちの誰かになにか用?」

 その男子生徒が二人に言った。


 どうやら向こうは結構前から、こちらの情報をかなり正確に把握していたようだった。


 その男子生徒は女子生徒が告白をしようとしていたお目当の男子生徒だった。

 なので、女子生徒はもう、なにも言うことができなくなって、恋の手紙を背中に隠したまま、顔を真っ赤にして、完全にその体が固まってしまっていた。


 なので仕方なく友達は、「実は、あなたに話があるんです。この子が」と女子生徒のことを指差しながら、その男子生徒に言った。


「あ、えっと、僕に話ってなに?」男子生徒が女子生徒に言う。


「……え、あ、は、はい。えっと、あの」はっと意識を取り戻したように、(あるいは電源の入ったおもちゃのロボットのように、いきなり)動き出した女子生徒は友達を見る。


 友達は、頑張って、と口だけを動かすとそれから二人の邪魔にならないように、そっとその場所を移動した。


「ふう」

 廊下の曲がり角を出て、友達は言う。


 よしよし。あとは二人に任せればいい。うんうん。よく頑張った、私。


 自分の友達の恋の応援をするという、親友としてとても大切な仕事を終えて、にっこりと笑って、友達は心の中でそう思った。その友達はすごく上機嫌だった。


「あの、すみません」

「え?」

 声をかけられて、その友達は後ろを向いた。

 

 すると、そこにはさっき、三人で話をしていた男子生徒の残りの二人の生徒がいた。


「実は、あの、こいつが、あなたに話があるって、言って」

 男子生徒の一人がもう一人の男子生徒のことを指差して言う。その男子生徒は赤い顔をしながら、女子生徒の友達のことをじっと、真剣な顔で見ていた。


「……え、えっと、はい。なんでしょうか?」

 女子生徒の友達は、顔を赤くして、緊張しながら、自分に話があるという男子生徒に言う。


「……あの、実は」

 そう言って、その男子生徒は、恋の告白を、その女子生徒の友達に言った。


 いつの間にか、もう一人の男子生徒は二人のいるところから、魔法を使ったみたいに、音もなく消えていなくなっていた。


 恋する乙女の応援団 終わり

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