春休み

濃密カスタードプリン atゲームセンター

 「いやー、ゲーセンなんて久しぶりに来たし。」


 「実は私も・・・・・・。」


 「え?そうなんスか?」


 周りから聞こえてくるけたたましい音楽やら効果音と、画面内を四方八方に動き回るキャラクター。


 あ、太鼓の達人。聞いた事ある音楽が流れてるなぁ、と思ったらここから流れてたんだ。


 そういえば、こういう場所ってあまり自分で行こうと思った事がなかったな。


 最後にゲームセンターに行ったときは・・・・・・家族でホテルに泊まって、そこにあったゲームコーナーに寄った時以来だっけ。


 「お、この子かわいーし!これやろっかなー。」


 と、渡辺さんが目の前にあるUFOキャッチャーを見ている。


 中には、ピンク色で球体なキャラクターが寝そべっている。


 「あ、えっと・・・・・・それはやめた方がいいと思うッス。」


 「えー?なんでー?」


 「その、ツメが3つあるのは確率機って言って、ある程度のお金を入れないとアームが強くならないんスよ。」


 「えー?でも、あそこのアームは強そうだし!」


 渡辺さんの指さす方を見ると、UFOキャッチャーをプレイしている人がいた。


 この機械と同じように、3つのツメがついている。


 UFOが動いて、人形を掴んで・・・・・・あ、ちょっと持ち上がった。


 「んと・・・・・・そういう設定なんですよ。しっかりすると2000円くらいかかるッス。」


 に、2000円も・・・・・・。


 「う・・・・・・そんなにかかるの?」


 渡辺さん、人形をジっと見てる・・・・・・よっぽど欲しいのかな。 


 すると、佐久間さんが鞄の中をまさぐったかと思うと茶色い財布を取り出し、中から100円を取り出した。


 「えっ、さくさく、2000円かかっちゃうんでしょ?」


 「ちょっとやってみたいことがありまして。」


 硬貨の投入口にそれを入れ、上のUFOがゆっくりと動き出した。


 横方向の移動が終わって・・・・・・って、その位置じゃ、あの人形を掴めないんじゃ?


 「ね、ねぇ、さくさく。行き過ぎじゃない?そこ。」


 「大丈夫ッス。」


 次に、それは縦方向に動き出し・・・・・・これまた結構ズレてしまってる。


 やってみたいことがあるって・・・・・・佐久間さん、どうしたんだろう。これじゃあ何もつかめないんじゃない?


 程なくして、UFOが効果音を出しながらゆっくりと下がってくる。


 位置的に何も掴めるはずも・・・・・・。


 「えっ。」「えっ!?」


 人形が持ち上がってる!


 なんで・・・・・・あっ!白い布みたいなのがアームに刺さってる!もしかしてタグ!?


 そのままUFOが動いていってアームが開き、ファンファーレと共にその人形が受け取り口に降って来た。


 「え、ヤバ。ちょ・・・・・・すごいしさくさく!」


 興奮気味に人形を取り出し、渡辺さんが人形を抱えていない方の手で彼女の手を握り、ブンブンと上下に振っている。


 「い、いや・・・・・・ただの偶然ッスよ。」


 「ううん、スゴイよ。タグを使うって事、全然思いつかなかったよ。」


 「い、いやぁ・・・・・・。」


 と、佐久間さんが頬を赤くして目を細めた。


 佐久間さんのそんな顔、数えるほどしか見たことがないな。


 

 ピロピロピロリン


 「今日は私の番ッスね。」


 「な、なんか悪いし。今日はあたしが・・・・・・。」


 「あ、えっと・・・・・・順番は順番なので、私がしたいッス。」


 すると、渡辺さんはこめかみのあたりを掻き、


 「ゴチになんね。」


 と、小声で言った。


 佐久間さんがカゴを一つ取り、持ち手を腕に通した。


 「にしても、スゴかったしさくさく!それも簡単に取っちゃうし!」


 と、佐久間さんが持っている、半透明の袋。そこに入っているフィギュアを指さす。


 「テレビで見たんだけどさ、箱型のって難しいんでしょー?取るの。」


 「あ、えっと・・・・・・ネットで取り方を調べまして。」


 照れてるのかな・・・・・・少し声の音程が上ずってる。


 「って、すいません。そういえば私しか楽しんで無かったような・・・・・・。」


 「いやいや、見てるだけで楽しかったし!さくさくすげーもん!ね?」


 「うん。すごく楽しかったな。」


 「そっ、そッスか?」


 あ、また半音くらい上がった。


 「あ、こ、こういうのどうッスか?」


 佐久間さんが急に足を止め、目の前の棚から何かを取り出した。


 「お。かわいーね、それ。」


 彼女の手の中には、プリンがあった。


 掌で掴めるサイズのプラスティック容器と、赤いリボンのシールで装飾された蓋。


 蓋がブラインドになって、上からどうなってるのかが見えないけど、横からは一面の薄黄色が映っている。


 蓋を剥がしたら、何色なんだろう。


 「ん。食べてみたい。」


 そして、佐久間さんがそこから更に二つをカゴに入れ、レジへと向かった。


 

 「「「いただきます。」」」


 よし、早速蓋をペリっと・・・・・・。


 いや、焦ってはだめだ。


 まずは一緒についてきたこのスプーンの袋を破って、心を落ちつけよう。


 勢いで一気にがっついちゃったりしたら下品だし、なによりあまり量が多くはないから、一気に食べちゃったらスグになくなっちゃう。


 ・・・・・・よし、スプーンを出せた。


 じゃあ蓋、いこうかな。


 ペリ、っと。


 ・・・・・・あ、焦げ茶色だ。


 この焦げ色が、ブラインドの奥に居たんだ。


 一口掬って、っと。


 濃い茶と薄い黄。二つの色の組み合わせが眩しい。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 あ、溶ける・・・・・・プルプルが口の中で、唾液と混ざって散り散りになっていく。


 ん?この少し噛めるこれは・・・・・・ん、ちょっと苦い。上の焦げ茶色かな?


 それ以外は歯で噛む必要が無いから、ちょっと念入りに噛んじゃうな。


 う、苦い。ちょっと噛み過ぎたかも。


 余り噛まなくても飲み込むのには影響ないし、調整しなきゃかな。


 よし、次の・・・・・・あ、下からカラメルがジュワっと湧いてきた。これも上手くスプーンで掬って、と。


 「んむ。」


 あ・・・・・・苦いけど、ほんのり甘い。蜂蜜みたいな、ねっとりとした甘さがするかも。


 この苦いのも、こうして混ざるとまた違う味になるのかぁ。


 美味しい。


 さっきみたいに、噛みすぎるのだけには注意しなきゃ。


 「ところでさ、カラメルが下って変な感じしないー?プッチンプリンとか茶色の方が上じゃん?」


 「あ、なんか分かる気がしますッス。」


 「でしょー?なんか変な感じするし!」


 「えっと・・・・・・プッチンプリンって、どこのお店のプリンなの?」


 「えっ!上原っち知らんの!?プッチンプリン。」


 「ご、ごめん。食べたことないかも。」


 「んじゃ、今度写真撮って送るし!見てみ?すっごいから!」


 「う、うん。ありがとう。」


 そして、何度か容器の底を叩いて欠片を掬って、最後の一口を時間をかけて味わった。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、列車のアナウンスが流れた。


 「それじゃあ帰りましょうか、先輩方。」

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