カステラ at新学期の教科書を買いに

 「数学は・・・・・・と。」


 あ、ここの本棚が数学の教科書かな?


 んと・・・・・・あ、あった。薄い青色の表紙にこの図形の模様。間違いない。


 せっかくだし、後で数学の参考書のコーナーも見てみようかな。


 んっと、あとカゴに入ってないのは・・・・・・英語かな?


 苦手教科だし、こっちも参考書見ておこう。


 んっと、英語は・・・・・・あ、この裏かな。


 「んお?上原っちじゃーん!上原っちも教科書買いに来た感じ?」


 「あっ、渡辺さん?」


 英語の本のコーナーにたどり着くと、長い金髪と見慣れた服の彼女がいた。


 何かの本を開いており、そこから目を離してこちらにいつもの八重歯で笑いかけてくれた。


 「何を読んでるの?」


 「ん、これ?」


 と、パタンと本を閉じて表紙をこちらに見せてくれた。


 ・・・・・・マンガで分かるネイティブ英会話?


 「いやー、結構面白くてさー、これ。」


 と、パラパラとページをめくったかと思うと、とあるページを見せてきた。


 「ほらこの子!なんかさくさくっぽくない?」


 彼女の指さす所を見ると・・・・・・短い髪の女の子が描かれていた。


 そのページでは難しい文法を見つけて頭を抱えているシーンらしく、その困り顔が確かになんとなく・・・・・・似てる。


 「言われれば・・・・・・見えるかも。」


 「でしょでしょー?」


 というなり、同じようにページをパラパラと捲っていき、


 「あれー・・・・・・上原っちにそっくりな子のとこどこだっけ・・・・・・。」


 目を細めてひたすらパラパラと捲っている。


 あ、今のページの渡辺さんっぽい。

 

 って、この本、金髪で長い髪の子がメインキャラらしく、あちこちのページに登場してる。


 「んー・・・・・・?」


 彼女の目を盗んで、その腕にぶら下がってるカゴを覗いてみると・・・・・・何も入ってない。


 ずっと読んでたのかな。


 「あ、先輩方?」


 声がした方を振り返ると、そこに佐久間さんがいた。


 手にはここの書店の袋を持っている。これから帰るところだったのかな。


 ・・・・・・事前に待ち合せたり会う約束もしていないのに、こうして同じ時間に会うって凄いな。


 「おー、さくさく。おはよー。」


 「あ、おはようございますッス。」


 「おはよう、佐久間さん。」


 「さくさくも教科書買いにー?」


 「あ、いえ。漫画の新刊が出たみたいなので、買いに来ました。」


 「そうそう、さっきこの漫画でさ、さくさくそっくりな人を見つけてさー!」


 と、彼女が佐久間さんを手招きし、再び本をパラパラさせはじめた。



 ピロピロピロリン


 「今日は私の番だね。」


 「ゴチになんねー。」


 「お世話になるッス。」


 傍にあったカゴを一つ手に取り、持ち手を腕に通す。


 今日の私は、どんな気分なんだろう。


 クッキー・・・・・・じゃないな。今日の私の舌は、硬いものの気分ではないみたい。


 となるとふわふわしてそうな・・・・・・でも、パンみたいにしっかりしたのは入らなさそうだな。


 となると・・・・・・。


 「春休み終わったらあたしたち3年かー。」


 「あ、うん。そうだね。」


 「新しい一年の人が、入ってくるんスね・・・・・・。」


 「んだねー。さくさくに後輩ができるんだねー。」


 「こ、後輩・・・・・・。」


 んー・・・・・・あ、これいいかも。


 目に留まったそれを手に取った。


 「お、カステラ?なんかオシャレだし。」


 「あ、はい。和風というか、奥ゆかしいというか。」


 カステラ。


 そういえば、日本にカステラがやってきた時、あの坂本龍馬の目に留まって、どうにか会社で量産できないかとレシピまで作っていただとか。

 結局失敗しちゃったらしいけど。


 ちなみに、日本に伝わったときに「ボロ・デ・カステラ(これはカスティーリャ王国のお菓子だ。)」と言われた事から、カステラと呼ばれるようになっただとか。


 パッケージには、ふわふわな食感であろう黄金色のスポンジが映っている。


 「じゃあ、これでいいかな?」


 二人の頷きを見て、そこから更に二つをカゴに入れてレジへと向かった。



 「「「いただきます。」」」


 袋の・・・・・・あ、切込みがある。ここから開けれそう。


 よし、開いた。


 わ、プラスティックの蓋がしてある。多分、湿らないように密閉する為なのだろうけど、高級感を感じる。


 蓋を取って・・・・・・三切れかぁ。どうやって食べようかな。

 でも、なんか変だな。


 あ、そっか。カステラの上って薄い紙が乗ってるんだ。


 じゃ、剥がして、と。


 ん・・・・・・奇麗な焦げ茶色。


 お、持つとずっしりとしていて、しっとりしている。


 そして、奇麗な黄色。

 

 縦・・・・・・は顎が外れちゃうほど長いなぁ。


 横向きで、ポロポロしちゃわないように気を付けながらかな。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 ん、柔らかい。歯がしっとりとしたスポンジに、スイーっと入って行っちゃう。


 そして、甘い味が噛むほどにそこからしみだしてきて、舌がその甘さでジンジンしてくる。


 そうか、私の口の中の水分をカステラが吸収して、それがカステラ味になって舌に戻ってきてるのか。


 次の一口は・・・・・・よし、茶色のところを多めに・・・・・・。


 「んむ。」


 あ、茶色の所、スポンジとは全然違う。そっか、薄い紙が貼られていた分、それだけしっとりしてるのかな。


 そして、口の中の水が吸われて、舌が甘くなって・・・・・・。


 美味しい。


 うー、紅茶があったらなぁ。

 苦めのあの銘柄のがここにあったらなぁ・・・・・・。

 

 「あ、あの先輩。その・・・・・・後輩とってどんな感じに接すればいいのでしょう?」


 「んー?フツーでいれば大丈夫じゃないー?あたし、さくさくと上原っちと話すときは二人とも同じテンションだし?」


 「その。上原先輩はどんな感じに・・・・・・。」


 「え?うーん・・・・・・あ、好きなものの話だったりはどう?佐久間さんだったら漫画とか、パソコンの話とか。」


 「あ、なるほど・・・・・・で、でも。その、暗い先輩だって思われないッスか?」


 「えーなんで?一緒に楽しく喋れたらそんなの関係なくない?」


 「あ・・・・・・ッスね。頑張ってみますッス。」


 最後の一口を口に入れ、しっとりを入念に味わった後に、喉へと少しずつ流していく。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつものアナウンスが流れた。


 「それじゃあ帰ろうか、二人とも。」

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