春ポテト あま旨塩味 atテスト終了

 「ねーねー、上原っち。テストどうだったー?」


 と、渡辺さんがいつもの・・・・・・いや、いつもよりも爽やかな笑顔のような気がする。


 「えっと、飛ばしたところはないからちょっと自信はある・・・・・・かも。」


 変な勘違いさえしてなければ、いつもの点数は取れてる・・・・・・と思う。


 「そっかー。」


 ん?なんか渡辺さん、ソワソワしてる?


 いつもより、瞬きの回数が多いような・・・・・・。


 あっ、もしかして。


 「その。渡辺さんはどうだったの?」


 「えー?聞くそれー?」


 と言っているものの、照れ隠しをするかのように、目を細めて髪をくるくると指に巻いている。


 「まーね、今日の朝はドキドキだったんだけどさー?」


 「う、うん。」


 「テストが配られて問題を見た瞬間さ、ガッツポーズしそうになったし!」


 そうだったんだ・・・・・・でも大丈夫かな。


 前のテストでは確か渡辺さん、問題を解く場所がズレてたんだっけ・・・・・・。


 「ね、ね。気になるっしょ!」


 「え?な、何が?」


 「もー!分かるっしょ?聞いて聞いて!」


 なんだろう・・・・・・渡辺さん、何を聞いてほしいんだろう。


 あっ、ちょっと胸を張ってる。私の質問待ちをしてるのみたい。


 んっと・・・・・・。


 「あ、回答のズレはない?」


 「ダイジョーブ!見直ししたからそれはないし!」


 「名前はちゃんと書いた?」


 「モチ!渡辺マノンってしっかり書いたし!」


 「あ、単位とかはちゃんと付けた?」


 「もっちろん!・・・・・・って、そうじゃなくて!」


 えっ・・・・・・何か勘違いしちゃってたかな。


 それとも、もっと重要な事が抜けちゃってたかな。


 「もー、違うしー!テスト何点の自信があるか聞いて欲しいし!」


 「あっ・・・・・・そっか、ごめん。」


 そんなに今回、自信があるんだ・・・・・・。


 「じゃあじゃあ、ほい!改めて!」


 「んと、じゃあ・・・・・・テスト満点取れそう?」


 「高い!高いし上原っち!90点いけそう?とか、ふわっとそんな感じで聞きたかったし!」


 「う、ご、ごめん。」


 すると、渡辺さんはシシ、と八重歯を見せて笑い、


 「上原っちってそういうとこ天然だよねー。」


 「て、天然?そうなの?」


 「だし!すっごい天然だと思うけどなー。」


 いや私、天然じゃないと思うけどなぁ・・・・・・。


 

 ピロピロピロリン


 「んじゃ、今日はあたしの番だねー。」


 「ん。ありがとう。」


 「お世話になるッス。」


 彼女がカゴを一つ手に取り、持ち手を腕に通す。


 「そーいえばさっきさ、上原っちがさー・・・・・・。」


 「えっ?それはなんというか、失礼なのですがその・・・・・・て、天然ッスね。」


 「えっ、佐久間さんも?」


 「す、スイマセン。」


 「う、ううん。怒っては無いんだけど、私天然じゃ無いと思うよ?」


 「「いや、天然だし(ッス)」」


 違うと思うんだけどなぁ・・・・・・。


 数歩先を歩いていた渡辺さんが不意に止まり、


 「お、これいいんじゃない?最近暖かくなってきたし!」


 と、そこの棚から一つを手に取った。


 彼女の手には、桜の花びらのようなピンクと、優しい色合いの白。それと、大きな文字で『春』と書かれている。


 ポテトチップスの・・・・・・あま旨塩味?


 どんな味なんだろう。

 

 「ザ・春って感じッスね。」


 「うん。美味しそう。」


 「じゃ、これでいい感じだし?」


 私たちがその言葉に頷くと、彼女はそれをそのままレジへと歩いて行った。


 

 「「「いただきます。」」」


 渡辺さんが袋を開けてくれた。


 あ、普通のポテトチップスじゃなくて、ギザギザに折りたたまれてる。


 一枚に狙いを定め、二人の手が引いてからそれを取るべく袋に手を入れる。


 ・・・・・・よし、これだ。


 薄茶の芋の色と、こんがりと焼かれたのかな。端っこが濃い茶色だ。


 それに、透明な塩の結晶がはらはらと乗っている。


 山になっているところや谷になっているところに法則性なく付いている。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 ジャガイモの香りをガリガリと噛んでいって・・・・・・あっ、すごい。しょっぱいのにほんのり甘い。


 すごく不思議な感じがする。


 すぐ溶けちゃうから、きっと舌に触れるのは一瞬なんだろうな。


 でも、その一瞬でも十分に塩のしょっぱさだけじゃなくて、甘い味も少し隠れて主張してきてくれる。


 よし、2枚目は・・・・・・あれにしよう。


 お、これ白いのが多い。ということは、甘さも強いのかな。


 「んむ。」


 あっ、しょっぱさも勿論強いけど、その分甘さが引き立っているような気がする。


 しょっぱいと思ったら少し甘くて、甘いと思ったらしょっぱくなる。


 そういえば、甘いのとしょっぱいのってすごく合うって聞くなぁ。


 確かに、この二つって相性がいいみたい。


 美味しい。


 「ところでさ、春休みどうするー?」


 「えっと・・・・・・でも、短いよね、春休み。」


 「あー・・・・・・確かに。どうしよ。」


 「それなら、駅のゲーセンなんてどうでしょうッスか?他の階に服屋とか本屋もありますッスよね?」


 「あっ!それいーじゃん!いこいこ!」


 そして、次の一枚・・・・・・と思ったらもう無かったので、指に残った白い結晶を舐めた。


 その時、いつものアナウンスが流れた。


 「あのアナウンス、逆方向の列車じゃない?」


 「えっ?」


 あっ、ホントだ。


 「天然だし。」


 「ちょっと思ったッス。」


 違うと思うんだけどなぁ・・・・・・。 

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