ベイクドチーズケーキ at Zoomテスト勉強

 「あと5分・・・・・・。」


 掛け時計を見ると、1時まであと5分になっていた。


 スマホ良し、ノート良し、教科書良し、お菓子も・・・・・・手に届くところにある。


 って、お菓子を見るの何度目だろ。


 3時までまだまだなのに、気分が逸ってソワソワしちゃってるのかな。


 コンビニへ午前中の暖かいうちに行って、家の中で食べるから紅茶に合いそうなのを買ってしまった。


 ・・・・・・二人と同じ物を食べられないのが少し残念だけれど。


 んっと、スマホのこのアプリを起動して・・・・・・。


 う。まだ寒気が・・・・・・。


 ずっと座っている訳だし、暖房だけじゃ寒いかな。カーディガン羽織っておこう。


 で、次にこの画面のここを、えっと・・・・・・。


 あ、よし。これでいいはず。


 これでいいはず・・・・・・だよね?


 「おっはー、上原っち。」


 「おはよう、渡辺さん。」


 良かった、合ってた。


 それから数秒くらいして画面にもう一つ四角で出て、 


 「おはようございます、先輩。」


 「おっはー。」


 「おはよう、佐久間さん。」


 「そういえば上原っちー、体の調子はー?」

 

 「あ、うん。大分直ってきたから大丈夫だよ。」


 「そ、その。悪化したら無理しないでくださいッスね?」


 「ん。ありがと。」


 「でさ、早速なんだけどさ・・・・・・。」


 渡辺さんが頭を掻きながら、数学の教科書をこちらに見せてきた。


 

 「3時だー!」


 そう言い放ったかと思うと、画面越しに渡辺さんが大きな伸びをしている。


 「二人は何食べんのー?あたしこれ!」


 と、画面に食べ欠けの板チョコを映した。


 白いからホワイトチョコレートのかな?


 「あ、あたしはこれッス。」


 佐久間さんの画面に、皿に山のように盛られたおせんべいと、500ミリリットルの炭酸飲料が映った。


 「あっ、飲み物忘れてたし!ちょっと取ってくる!」


 そう言うなり渡辺さんの姿が画面から消え、少ししてからコップに入った・・・・・・麦茶かな?それが画面に映った。

 

 あ、私も紅茶淹れないと。


 まず茶葉を1杯入れて、魔法瓶からポッドにお湯を・・・・・・ん、このくらいかな。


 そして蒸らして・・・・・・よし、温度も丁度いい。


 んー・・・・・・どのカップを使おう。ソーサーはこれにして、とすると・・・・・・あ、これいいかも。


 お湯をゆっくり入れて、っと。


 ん。いい香り。


 「あ、お菓子はこれにしたよ。」


 と、画面にお菓子、ベイクドチーズケーキを向けた。


 「その、なんというかさ。やっぱお嬢様だなー、って。上原っち。」


 「すごくエレガントというか、なんというッスか・・・・・・。」


 「え?そ、そんな事ないよ。」


 画面越しだというのに、二人のキラキラな目が眩しい。


 それに、別に特別な事はしていなんだけどな・・・・・・。


 「えっと・・・・・・と、とりあえず食べる?」


 「あ、んだね!」


 「はいッス。」


 「「「いただきます。」」」


 いつもより少しタイミングがズレちゃった気がする。


 やっぱり、実際にここに二人が居るわけじゃないから変な感じがする・・・・・・。


 それに前を向くと二人がスマホの画面に映っていて、やっぱり変な感じ。


 って、紅茶が冷めちゃう。


 袋の口を開けて、と。


 わ・・・・・・厚い。


 小麦色の生地の間に、ずっしりと薄黄色のチーズが挟まっている。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」

 

 ん・・・・・・あ、チーズが歯にくっ付いてくるくらいねっとりしてる。


 しかも、歯で噛めるか噛めないくらいの硬さ。


 味も匂いも、凄く濃厚。


 そしてそれを、


 「んく。」


 はぁ・・・・・・。


 紅茶で口と鼻の味をリセットする。


 次は・・・・・・さっきの一口が丁度良かったし、同じくらいいこうかな。


 「んむ。」


 息を吸って吐くだけで、チーズの匂いが口と鼻に充満していく。


 チーズだから歯で噛めるくらいのチーズも、こうしてずっと口の中で転がしていれば・・・・・・トロトロになっちゃう。


 そして飲み込んで、紅茶を一口。


 「ふぅ・・・・・・。」


 美味しい。


 次の一口を味わいながら、こっそりとスマホの画面を見てみる。


 渡辺さんは板チョコをちびっと一口齧ったかと思うと何回も噛んで、また次を齧って・・・・・・あ、麦茶を凄い飲んで・・・・・・コップが空になってる。


 佐久間さんは、おせんべいを袋から出したかと思うと大きな口を開けておせんべいを半分くらいまで口に咥えてパリン、と言い音を上げてゴリゴリ、と硬そうな音を立てている。   


 家で二人がお菓子を食べるときって、こんな感じなのかな。


 「ねー、上原っち。今日何時までやるー?」


 「えっと・・・・・・6時にはご飯だから、それまで大丈夫かな。」


 「マ?じゃあじゃあさっきのとこもっかい教えてもらおっかなー。」


 「あ、そ、その。私も色々教えてもらいたく・・・・・・。」


 「私も、分からない単語と文法があって・・・・・・。」


 「りょ!まかせてほしーし!」


 最後の一口を口に入れ、カップを傾けて残りを頂く。


 「「「ごちそうさま。」」」


 「あれ?」


 なんか画面に変なのでちゃった・・・・・・どうしよう。


 「上原先輩?どうしましたか?」


 「あ、えっと。電池があと15パーセントで切れるってでちゃって・・・・・・。」


 「え・・・・・・えっと先輩。充電って知ってるッスよね?」


 「うん。コンセントに刺すやつだよね?」


 「充電しながらで電池が切れなくなるので、やってみてくださいッス。」


 充電のやつ、充電のやつ・・・・・・あったあった。


 これをここの穴に刺して・・・・・・。


 「穴に刺したよ。これで大丈夫?」


 「右上の数字のところにギザギザの雷みたいなマークでてるッスか?」


 「あ、うん。出てるよ。」


 「それで大丈夫ッス。」


 良かったぁ・・・・・・スマホが壊れちゃったかと思った。


 「ありがとう、佐久間さん。」


 「んじゃ、再開だし!」


 「ん。」「はいッス!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る