年度末テスト

ミニフロランタン at高校2年最後のテスト範囲

 「範囲、来たし。」


 「えっ?」


 音楽室へと歩いている途中に、彼女が呟いた。


 「数学の範囲だし。」


 「あぁ、うん。来たね。」


 「うぐ・・・・・・余裕そうだし、上原っち。」


 と、音楽の教科書を持っていない方の手で髪をガリガリと掻いている。


 「で、でも。夏と冬のテストより範囲は狭いと思わない?」


 実質、1月から今日までの範囲だから、多くはない・・・・・・と思った。


 「まぁさ?量というか、教科書のページ数は少ないよ?」


 今度は指を二本立てて、パスタをフォークで巻くように髪の毛をくるくると巻いている。


 「つーか、なんで3回もテストあんの?おかしくない?テスト勉強3回もしなきゃじゃん!」


 今度は大きなため息をついている。


 「で、でも。教科書の内容を1回で全部テストするって大変じゃない?」


 「ぐ・・・・・・。そーだけどさぁ・・・・・・別にテストで試す必要なくない?」


 「んん?どういう事?」


 「テストの他にさー、なんか、こうあんじゃん?テストすんごい緊張するんだし!」


 それは・・・・・・ちょっとわかるかも。

 私も苦手な英語とかは特に緊張するし。


 「で、でも渡辺さん。夏テストも冬テストも確かいい点だったよね?」


 「え?まー、うん。平均点よりは上だったし。」


 「じゃあ、余り気負う事もないと思うよ。先生もちゃんと見てくれていると思うし。」


 「でもあたし、数学の授業中寝てんじゃん?」


 「あっ・・・・・・。」


 そういえば今日も・・・・・・。


 「ちょ、なにその顔!すっごい焦るし!」


 

 ピロピロピロリン


 「今日は私の番だね。」


 「ゴチになんねー。」


 「お世話になるッス。」

 

 カゴを一つ手に取り、持ち手を腕に通す。


 さてと。今日の私はどんな気分なのだろう。


 んー・・・・・・こうしてみると、この間からガラリと商品が変わっている気がする。

 この間はチョコ菓子が沢山あったけれど、今見てる限りだとこの間よりも目に見えて姿を消している。


 バレンタインデーを過ぎたから当然といえば当然なのだけれど、改めてみると・・・・・・ちょっと面白い。

 日によってこんなに品ぞろえが変わるんだ。


 「そいえばさくさくー。テスト範囲出たー?」


 「あっ、はい。出たッス。」


 「またテストじゃんー?ダルくないー?」


 「は、はい・・・・・・あ、でも。範囲は狭めというか、なんというか。」


 「そ、そっかー・・・・・・。」


 「先輩、どうかしましたッスか?」


 「いやさー・・・・・・テストめんどいなー、って。」


 「ッスね・・・・・・。」


 んー・・・・・・あれ、これって初めて見るかも。


 「お、かわいーね、それ。一口サイズってやつ?」


 「ッスね。アーモンドがかわいいッス。」


 フロランタン。


 四角く切られたサブレ生地に、キャラメルでコーティングされたナッツが乗ったお菓子。

 それの一口サイズが8つ入っている。

 

 確かフロランタンって、フランスの町「フィレンツェ」とその町の語源になった女神の町「フロレンティア」とを組み合わせて出来た名前なんだっけ。


 私の知っているフロランタンはもう少し大きいのだけど、これはこれで・・・・・・二人が言うようにかわいい。


 「じゃあ、これでいい?」


 二人の頷きを見て、棚から更に二つをカゴに入れてレジへと向かった。


 

 「「「いただきます。」」」


 んっと・・・・・・あ、袋に切れ込みがある。

 やっぱりこういうの助かるなぁ。


 じゃあ有効利用させてもらって、っと。


 あっ・・・・・・アーモンドと砂糖の匂い。


 そして、小さいミニフロランタンが8個。


 一口サイズだから、ハイペースでつい食べちゃいそう。

 気を付けなきゃ。


 こういう時、紅茶があればっていつも思っちゃうな。


 よし、いこうかな。


 んっと・・・・・・無難に一番上のを一つ摘まんで・・・・・・。


 「んむ。」


 んっ・・・・・・ゴリゴリと硬い生地と、コリコリとしたスライスアーモンドが口の中で音を立てている。


 そして、控え目な甘さの代わりに、アーモンドの風味が舌に触れる。


 一口サイズというのもあって、大事に何度も噛むとその分だけアーモンドの香りが強くなっていって、その香りが鼻息をアーモンド色にしてくる。


 あっ。気が付いたら口の中にまだ香りの余韻があるのに、もう二つ目を手に持っていた。


 一口サイズ、おそるべし。


 「んむ。」


 わ・・・・・・今のアーモンドちょっと大きかった。噛み応えある。


 この強くない甘さと、深いアーモンドの香り。

 そして、一口サイズのこの形。

 お腹いっぱいになってもこのペースで食べれちゃいそう。


 美味しい。


 「あ、そいえばどうするー?テスト勉強。」


 「そうッスね・・・・・・迷惑じゃなかったら教えて貰いたいところがありまして・・・・・・。」


 「私も大丈夫。でもこの時期私、体調崩しやすくて・・・・・・。」


 「そうなん?どうしよっか。」


 「あっ、じゃあもしでしたら、リモートもありかもッスね。」


 「あー、年越しみたいな感じねー?いいじゃんいいじゃん!」


 「りもーと・・・・・・。」


 「上原先輩、今度一緒にリモートの設定どうッスか?」


 「あ、うん。ありがとう、助かるよ。」


 そうして、最後の一口を口に入れて入念に味わったのちに、喉に流し込んだ。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつものアナウンスが鳴った。


 「それじゃあ帰ろうか、二人とも。」

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