ピスタチオクッキー atミルクガール

 「でさー、うちのママさー、たまにあれ買ってきてとか言うんだけどさー。」


 「うん。」


 よし、あとは後ろに纏めた机を元に戻すだけだね。


 うぅん。当たり前だけど、教室の皆分の机の数だから、多いなぁ。


 「あ、この間なんてあのアイス買ってきてー、なんて言われてさ。どれだし!って。」


 って、渡辺さん。手が止まってるよ。


 と、私の視線に気が付いたのか、頭を掻きながら机を持って前の方へと持ってきては整頓していく。


 「多分ハーゲンダッツなんだろーけどさ。分からないんだし。」


 「ん?どういうこと?」


 分からないって・・・・・・?


 「んと、ママが言うには、高級アイスといえばコレ、みたいなんだし。」


 「高級アイス・・・・・・なら、ハーゲンダッツだね。スーパーのアイスコーナーじゃ他のアイスと100円くらい違うし。」


 「でも分からないんだし。」


 「え?でもその特徴はハーゲンダッツじゃない?」


 「だと思うっしょ?でもさ、ママが言うには大抵ガリガリ君の横に置いてあるみたいなんだし。」


 「それじゃあ・・・・・・ハーゲンダッツじゃないかもだよね。こんなに安くていいの?ってくらいに安いあのガリガリ君の横にそんな高級アイスを置いたら、あまりの値段の違いに金銭感覚がちょっと変になりそうだよね。ガリガリ君の横には100円とか96円とかのアイスがよく置いてあるし・・・・・・じゃあ、ハーゲンダッツじゃないかもね。」


 「でもさ、その特徴を聞いてみると、ハーゲンダッツっぽいんだし。」


 「え、特徴?どんなの?」


 「んと、確か・・・・・・小さくて、舌触りが凄く上品らしいし。」


 「じゃあ・・・・・・ハーゲンダッツかな。ハーゲンダッツのあの舌触りは一度味わったら頭に残って、また食べたくなるもんね。なのにあんなに小さいなんて罪なアイスだよ。じゃあ、ハーゲンダッツだよ。」


 「でも、違うかもなんだし。」


 「えっ?ハーゲンダッツだと思うけど・・・・・・。」


 「あたしもそうだと思ったんだけどさー。味付けにコーラ味があるんだって。」


 「こ、コーラ?じゃあハーゲンダッツじゃないね。ハーゲンダッツからそんなアメリカンなパンチのあるあの清涼飲料の味なんてしたら、ちょっと嫌だもん。じゃあ違うね。」


 「でも分からないんだし。」


 「えっ、まだ?」


 「ママが言うにはさー、名前の意味がよくわかんない、って言ってたんだし。」


 「じゃあハーゲンダッツだよ。興味があって調べてみたら、ハーゲンダッツって造語みたいだから、最初から名前に意味なんて無いし。じゃあもうそれハーゲンダッツだよ。」


 「でもさー・・・・・・。」


 「え、えっと。まだ・・・・・・?」


 「ママが言うには・・・・・・ハーゲンダッツでは無い、って。」


 「じゃあ・・・・・・ハーゲンダッツじゃないね。」


 ・・・・・・よし、掃除終わりかな。


 って、普段よりも時間が掛かっちゃったかも。


 「っべ、さくさく待ってるかな。」


 「う、うん。少し急ごっか。」


 と、小走り気味に階段を駆け下り、玄関前でスマホを見ている彼女に駆け寄った。


 「あ、その。全然待ってないッス!」


 「ご、ごめん。ちょっと話してて。」


 「そーだ。さくさく、このアイスって何だと思う?かくかくしかじか・・・・・・。」


 「ん、っと・・・・・・あ、パルムじゃないッスか?」


 「違う・・・・・・と思う。」



 ピロピロピロリン


 「今日は私の番だね。」


 「ゴチになるしー。」


 「お世話になるッス。」


 カゴを一つ手に取り、持ち手を腕に通す。


 うぅん。今日はどんな気分なのかな。


 さっきまでアイスの話をしていたから・・・・・・でも、外は白いし、ちょっとの距離だったのに肩に雪が積もるくらい降っているし。


 アイスじゃないね。


 となると・・・・・・あ、紅茶が飲みたいなぁ。


 暖かいカップを両手で持って、じんわりとその熱が伝わって・・・・・・。


 って、あそこじゃ飲めないよね。


 となると・・・・・・あ、お茶菓子だったらその気分になれるかも。


 よし、そうとなれば・・・・・・クッキーとかはどこにあったっけ。


 「にしてもさ、二人って全然転ばないよね。」


 「え?あ、雪道でって事?」


 「そーそー。あたし、今年に入ってから・・・・・・5回は転んでるし。」


 「そ、そうなんスね・・・・・・。」


 「子供の頃からここに住んでたから・・・・・・慣れてるのかも。」


 「あ、私の多分そうッス。」


 「あーそっか。あたし去年こっちに来たしなー。」


 ・・・・・・お、あった。


 これなんてどうだろう。


 「二人とも、これ・・・・・・。」


 と、手に持ったピスタチオクッキーを見せた。


 「お、なんかかわいいじゃん。」


 「わ、私も食べたいッス。」


 よし。じゃあ・・・・・・。


 もう2個をカゴに中に入れて、レジへと向かった。



 「「「いただきます。」」」


 袋の端のギザギザに手を添えて、ピッと下に引っ張る。


 あっ、クッキー生地のいい匂い。


 匂いだけでこの食感はサクサクしていると、脳がシグナルを出している。


 お・・・・・・クリーム色の生地にピスタチオの緑色が埋まっている。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 ん・・・・・・大きくいき過ぎた。ポロポロと噛んだところから崩れちゃった。


 気を付けないと。


 あっ、でも。大きい一口でいったのは正解だったかも。


 ピスタチオのゴリゴリとした食感が生地のサクサクと一緒に居て、違う食感が噛みしめるたびに歯を押し返してくる。


 あ、先にクッキーが溶けちゃった。


 ピスタチオって、こんなにとろっとして濃厚な味なんだ。


 生地の小麦粉の匂いと合っているかも。


 ここに紅茶があればなぁ・・・・・・。


 よし、2枚目に行こう。


 「んむ。」


 あ、予想よりもゴリゴリしてる。


 表面の生地に移っている数だと想定していったら、思いのほかゴリゴリの食感が多い。


 コリコリと噛んでいき小さくしていく。


 美味しい。


 思いの他、一口一口が長めに味わえちゃうな。 


 「にしても、ママの言うアイスってなんなんだろ。」


 「な、謎ッスね。」


 「案外、ハーゲンダッツだったのかもしれないよ?」


 「それが濃厚だよね~。家帰ったらソッコー聞いてみるし。」


 そうしてついに最後の一枚となってしまい、他よりも2倍の回数噛み、ゆっくりと飲み込んだ。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつものアナウンスが鳴った。


 「じゃあ帰ろう、二人とも。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る