3学期

ミックススムージーキウイ at年明け登校日 

 「渡辺さん?」


 図書館から戻ると、彼女はまだ机に突っ伏して寝ていた。

 

 昼休み、ご飯を平らげたかと思えば「ごめ、ちょっと寝る。」なんて腕を前で組んでそこのスペースに頭を突っ込んだ。


 ・・・・・・今年最初の授業。


 しかも、午前は数学と英語だったしなぁ。


 うぅん、手が重いかも。


 そういえば、去年の年末年始はずっと勉強だったな。息抜きにテレビを見るくらいだったっけ。

 

 シャーペンを持ったのは今年初めて・・・・・・だっけ。


 ・・・・・・色々行ったっけ。


 スキーに、初詣に・・・・・・あ、あと慣れないけどリモートで3人で年越しも。


 もし、あれからずっと一人だったら、そんなことをするって考えられなかったのかな。


 「ふわぁ。」


 あっ、いけない。次は手を押さえないと。


 ・・・・・・ふふ。


 キンコンカンコン


 あ、チャイム。


 「渡辺さん、昼休み終わったよ。」


 と、肩を掴んで左右に揺らす。


 その度に金の髪がさらさらと揺れ、


 「うぅん・・・・・・。」


 と口から洩れたかと思うと、彼女の体勢が変わった。


 両手はそのまま机。そして顔上を向き天井を仰いでいる。


 ・・・・・・まだ起きる気配はない。


 柔らかそうな頬を突っついたら・・・・・・起きるかな。


 次は音楽室での授業だから、急いで・・・・・・。


 「んがっ。」


 なんて思っていたら、彼女らしからぬ野太い声が発せられたかと思えば、その肩がビクン、と跳ねた。


 「あ・・・・・・あ、次移動教室だっけ?」


 「う、うん。音楽だよ。」


 ・・・・・・ちょっとしたかったな。



 ピロピロピロリン


 「今日は私の番ッスね。」


 「ゴチになるねー。」


 「ありがとう。」


 佐久間さんが、傍にあったカゴを一つ取り、持ち手を腕に通す。


 「今日なんかさー、辛くなかったー?」


 「あ、その。今年初めての学校ですもんね。」


 「そーそー。まだ正月気分抜けなー、だし。」


 「うん。そうだね。」


 「えっ、上原っちも?」


 「う、うん。いつもよりもちょっとだけ眠たいかも。」


 「あ、じゃあ・・・・・・目が覚めるのとか飲みたいッスね。」


 目が覚めるのかぁ。


 そうして、佐久間さんがトコトコと私たちを先導し、ある商品棚の前で止まった。


 見るとそこにはスムージや、カップに入ったアイスコーヒーが並んでいる。


 「あっ、これ・・・・・・。」


 と、彼女はそこから一つ手に取った。


 「キウイの酸っぱさって、目が覚めないッスか?」


 「あー、酸っぱいよね、キウイ。」


 キウイの絵が描かれた容器と、ミックススムージーという文字。


 キウイかぁ。


 確か、中国で最初は作られていたんだっけ。

 その時は「栽培したものを食べる」というわけじゃなくて「木の実のように自然にできたものを食べる」という習慣だったらしい。

 そこからニュージーランドの人が中国にやって来て、その種を持って帰って初めて栽培を行ったのだとか。


 あの、舌が痺れるような酸っぱさ。目が覚めそうだな。


 「うん。キウイ賛成。」


 そうして、佐久間さんは同じ物をあと二つカゴに入れるとレジへと歩いて行った。



 「「「いただきます。」」」


 側面に付いているストローを取って、っと。


 結構太い。スムージーだから、果汁のつぶつぶ感もあるのかな?


 で、差込口は・・・・・・あっ、蓋の部分がキウイを切ったときの断面の絵になっててかわいい。


 あ、差込口コレかな?U字型に跡がついてる。


 ・・・・・・そういえば、前このタイプの飲み物を飲んだときに失敗しちゃったっけ。


 んっと・・・・・・あ、やっぱり。


 このキウイの書いてある蓋、取っ手がある。


 またストローで無理やり開けそうになるところだった。


 危ない危ない。


 じゃあ、これを引きはがして、と。


 あっ、すごい匂い。


 キウイの酸っぱさだ。


 スムージーの準備はできたね。


 じゃあ、ストローを袋から取り出して、と。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 あっ、つぶつぶしてる。


 ザリザリするから・・・・・・これは、キウイの中の種かな?


 あっ、あっ、酸っぱいの来た。


 舌がゾクゾクする。

 

 もし舌に毛があったら、全身逆立ってるかも。


 飲み込むと、喉の奥あたりにも居座って、チクチクと酸っぱさで刺激してくる。


 ストローが太いから、思いの他吸い込んじゃったのかな。

 次は少なめに・・・・・・。


 「んむ。」


 わ、舌に触るのが怖くて頬の内側に持っていったら、ここもピリピリするっ。


 あっ、でも・・・・・・ちょっとづつ唾液と混ざっていって中和されてトロトロになっていってる。


 すると、酸っぱさがその姿を隠して、果物の甘みが姿を現した。


 キウイって、こういう甘さもあるんだ。


 「そういえば、二人とも授業どうだった?寝た?」


 「え、えっと・・・・・・寝ては・・・・・・ないッス。」


 「私も・・・・・・寝ては無いよ。」


 「マ?あたしだけ?寝たの。あたしの睡魔だけ強くない?」


 「れ、レベル100くらいありそうッスよね。」


 「わかる。カンストしてそう。」


 と、ストローがズズ、と音を立てて吸い始めたので、容器を傾けて最後の一滴を飲み干した。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつものアナウンスが流れた。


 「それじゃあ帰りましょう、先輩方。」

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