ハッピーターン コーンバター味atプチダイエット

 「そいえば卓球って、二人ともしたことあんの?」


 と、渡辺さんがジャージの裾に腕を通すなりこちらを見た。


 「いや・・・・・・私は無いかな。」


 「あ、えと。私は中学校の時にクラブ活動で入ってたので一応は・・・・・・。」


 するといつもの調子で彼女が八重歯を見せ、

 

 「マ?じゃあ色々教えてほしーし!」


 と、ショルダーバッグを肩に掛けたかと思うとそのまま更衣室を出ていった。

 

 「あ、ちょっと・・・・・・。」


 ズボンズボン・・・・・・あったあった。


 ・・・・・・よし。


 「佐久間さん、いける?」


 「はいっ、いけるッス。」

 

 そしてバッグの持ち手を持ち、


 「あ、渡辺先輩、携帯忘れていってるッスね。」


 佐久間さんの視線の先を見ると、見慣れたスマホが床に置いてあった。


 カピパラの絵が描かれたスマホケースに、ひっくり返すとひび割れた保護フィルム。


 忘れていったんだ・・・・・・。


 それを拾い上げ、彼女の後を追って体育館へと入った。


 あちこちでカンコン、とピンポン玉のぶつかる音と話し声が聞こえてきた。


 市民体育館ということもあってか、卓球をしている人は小学生くらいの子から顔にシワのあるお爺さんまでそこにいた。


 ・・・・・・学校の体育館でないから、いろんな年齢の人がいるというのは新鮮かも。


 「渡辺さん、携帯忘れてるよ。」


 と、既に体育館にいた彼女を見つけ、それを手渡した。


 「ありー。結構焦った。」


 それを受け取るや否や、彼女は自身のジャージのポケットにそれをねじ込んだ。


 「お、あそこの台でしない?」


 と、彼女の指さす先には誰もいない卓球のコートがあり、ほかの台と比べて何となく新品の雰囲気を醸していた。


 その言葉に頷き、歩いていくと、


 「お、ご自由にお使いくださいだって。」


 そう書かれた紙のところには何本かの卓球ラケットと山と積まれたピンポン玉が並んでいた。


 ん?ラケットって2種類あるんだ。


 一つは持ち手が平らで、もう一つは出っ張っている。


 「平らな方がシェークで、もう片方はペン、ってやつッスね。」


 と、佐久間さんが持ち手が平らな方を持ち、 


 「こうして握手しているように持つからシェークで、ペンは・・・・・・。」


 そのまま続けて、もう片方のラケットを手に持った。


 なるほど・・・・・・確かに、手の形がペンを持っているように見えるかも。


 「どっちが使いやすいとかってあるの?」


 「えっと・・・・・・人によって違うッスから、先輩の使いやすい方で大丈夫だと思うッス。」


 「わかった。」


 うぅん・・・・・・とはいっても。


 試しにまず、ペンを持ってみる。


 うぅん・・・・・・こっちは変に力が入っちゃって、指が釣っちゃいそうだぁ。


 じゃあ、シェークはどうかな。


 ん・・・・・・うちわとかを持つ感じかな?これなら大丈夫そう。


 「あ、あの先輩。」


 「ん?どうしたの?」


 「その・・・・・・人差し指をこうして、伸ばして添える感じッス。」


 「え、そうなの?」


 見ると、彼女の持ち方は裏面に人差し指が伸ばして添えられていた。


 それを見て同じように持ってみると・・・・・・あ、いい感じかも。


 さっきよりも安定した気がする。


 「あたしペン!軽いしコレ!」


 と、渡辺さんは手に持ったラケットをブンブンと振り回している。


 「あ、えっと・・・・・・とりあえず、3点先取で交代ってどうでしょうッスか?」


 「りょ!」


 「わかった。」


 「最初はその、サーブとかあるので私がこっちに付くッスね。」


 と、佐久間さんが向こう側のコートへとついた。


 「じゃああたし最初いい?」


 「あ、うん。わかった。」


 シシ、と準備万端といった感じの笑みを浮かべて、彼女がコートへと付いた。


 「最初のサーブは、こうして・・・・・・。」


 佐久間さんがピンポン玉を高く放り投げたかと思えば、


 「こうやって、自分と相手のとこにワンバウンドさせるッス。」


 ラケットで球を打ち、彼女の言う通りにピンポン玉がバウンドしてこちらへ飛んできた。


 それを、渡辺さんは空いている手で掴むと、


 「りょ!」


 そう言ったかと思うと、佐久間さんの球の軌道よりも早い速度で球を打ち出した。


 しかも、佐久間さんの言った通りにサーブのバウンド、自分のところに一回、相手に一回バウンドした。


 そしてそれを表情一つ変えず、相手は打ち返してきた。


 すご・・・・・・。


 「お、返す時は相手のとこにワンバンな感じ?」


 と、それを喋りながら打ち返した。


 「あ、はい。そうッス。」


 カンカンカンカン


 すごくラリー続いてる・・・・・・。


 「あ、上原っちいいよ!」


 と、飛んできた球を上に打ち上げて手でキャッチし、私に手渡してきた。


 「え?あ、う、うん。」


 え、えっと・・・・・・ラリーは、2バウンドだよね。


 高く上げて・・・・・・。


 ブンッ


 「あれ?」


 そして床でバウンドするピンポン玉。


 「も、もっかいするね。」


 もう一度、今度はどこに落ちてくるのかよく見て・・・・・・。


 「あっ。」


 再びバウンドするピンポン玉。


 ・・・・・・なんでラケットを振り忘れたの。


 「そ、その。私サーブするッス!」


 「う、うん。」


 ボールを彼女に投げ、そして彼女の手によって高く打ちあがる。


 く、来るのか。


 えっと、打ち方は・・・・・・渡辺さん・・・・・・は、ペンだからあんまり意味は無いか。


 佐久間さんは・・・・・・あ、まずい。


 ボールもう飛んできてる!


 うわっ、結構近い!


 手首を折り曲げたらいけるかな。


 って、迷ってる暇なんてない!


 ゴキッ


 「あ。」


 どうしよ・・・・・・すっごく変な所が急に痛い。


 「先輩、だ、大丈夫ッスか?」


 「上原っち、肩貸す?」


 「う、ううん、大丈夫。でも、その・・・・・・ちょっと休んでるね。」



 ピロピロピロリン


 「今日はあたしの番・・・・・・だっけ?」


 「そうかな?」


 「大掃除の後っすからそうッスかね?」


 「りょー。」


 と、傍にあったカゴを手に取り、持ち手を腕に通した。


 「なんかさ、お正月明けだから、脱お正月って感じにいきたくない?」


 「脱お正月って?」


 「ポテチとか、クッキーとか、日本食っぽくないのっていうか、なんというかさー。」


 日本食っぽくないのかぁ。


 確かに、今年に入ってからあまりそういったのは食べていないかもしれない。


 「うん、いいと思う。」

 

 「同じくッス。」


 シシ、と彼女が八重歯を見せて笑い、カツカツと私たちを先導していく。


 「あ、ねぇねぇ。あたし臭くない?下着とか変えたから大丈夫と思うけどさ。」


 「ん?特に大丈夫だと思うよ?」


 「は、はい。」


 「そういえば、渡辺さんって結構汗の匂いを気にするよね。」


 「えっ、そ、そう?」


 思い返してみれば、体育の時間の度にいつも聞いてくる気がする。


 「まあ、えっと・・・・・・嫌じゃん?臭いの。」


 「汗かいた後って皆臭くない?渡辺さんだけじゃないと思うけど。」


 「その。私も臭いッスよ、汗。」


 「そう・・・・・・だしね!」


 と、突然彼女の足が止まり、その手が目の前の商品棚へと伸びた。


 彼女が手に取ったのは・・・・・・ハッピーターン?


 「コーンバター味だって!なんかいい感じしない?」


 ハッピーターンかぁ。


 そういえば、このマスコットキャラって「プリンス・ハッピー・ターン・パウダリッチ」って・・・・・・言うんだっけ。

 ハッピー王国の王子、なんだっけ。

 確か・・・・・・社交ダンスが得意なんだっけ。


 コーンバター味かぁ。


 美味しそう。


 「うん。食べてみたい。」


 「あ、私も同じくッス。」


 りょ!と言うなり、彼女はもう一つを手に取り、そのままレジへと向かった。



 「「「いただきます。」」」


 チャック口を彼女が開いてくれたので、そのまま中に手を入れた。


 お・・・・・・すごい匂い。


 開け口からコーンのあの甘い匂いがむわんと鼻に届いた。


 んっと・・・・・・よし、これだ。


 一つつまみ、手を引き抜く。


 わ、近くで嗅ぐとコーンだけじゃなくて、バターのねっとりした匂いもする。


 よし、いこうかな。


 粉もスゴそうだし、一口で行こう。


 「んむ。」


 ん、サクサク。


 あ、甘い。


 口に入れて匂いはもちろんの事、下に触るパウダー状の粉がすごく甘い。


 溶けてもしばらくその残り香がする。



 んっと、次は・・・・・・よし、これ。


 「んむ。」


 甘いといえば砂糖だけれど、この甘みは砂糖とは別の角度の甘さな気がする。


 うぅん、一口で行けちゃうからまた次の手が伸びちゃうな。


 指についた粉、いつなめようかな。


 粉が付くお菓子って今まで何度か食べてきたけれど、今回はその2倍以上ついているような気がする。


 「あー、一週間後学校かー・・・・・・」


 「ッスねー・・・・・・。」


 「わがままは言わないから、元の体重に戻るまで休みたいし。」


 「え、渡辺さんそんなに増えたの?」


 「ちょ、違うし!でも、お腹の肉ちょっとつまめちゃってさ。やってみる?」


 「んっと・・・・・・あ、ちょっとだけだけど・・・・・・。」


 「で、でも。このくらいなら分からないと思うッスよ。」


 「えー、そうかな?」


 と、いつの間にか二袋目が空となってしまったので、指についた粉を舌で嘗めとった。


 手の指まで甘くなてしまったんじゃないかと思うくらいに甘かった。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、列車のアナウンスが鳴った。


 「それじゃあいこっか、二人とも!」

 

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