つきたてのお餅 at初詣

 「ん・・・・・・。」


 ふわぁ・・・・・・。


 あ、まずい。寝ちゃってた。


 バス停乗り過ごしちゃってないかな。


 ・・・・・・よかった、大丈夫だ。


 んっと・・・・・・次の次で降りるんだっけ。


 ん、携帯が振動してる。


 えっと・・・・・・。


 『今着いたー!』


 という文字と共に、カピパラがゼエゼエと息を切らしたスタンプが貼られている。


 『了解ッス!』


 と、今度はアニメのキャラが敬礼をしているスタンプが張られた。


 『バス停に着くのだけど、どう行くの?』


 『じゃあ私、バス停に向かいます!』


 『ありがとう。待ってるね。』


 初詣は毎年行っているのだけど、これから行く神社は初めてだなぁ。


 渡辺さん曰く「ご利益がすごいんだし!」だとか。


 「ふわぁ・・・・・・。」


 昨日はよふかししすぎたかな。


 でも、今寝たら絶対乗り過ごしちゃうな。


 初詣かぁ。


 二人はどんなお願いをするんだろう。


 

 「お、あけおめー。二人とも。」


 「あ、あけおめッス、先輩!」


 「あけましておめでとう。」


 神社の鳥居の前で、モコモコの暖かそうなジャンパーを着た彼女が手を振ってくれた。


 「じゃ、早速いこっか!先着に漏れちゃうかもだし!」


 え、先着?


 「せ、先着って?」


 「私も初耳ッス。」


 すると彼女は頭を掻き、


 「あれ?言ってなかったっけ。」


 そう言い、神社の境内に指を指した。


 「ほら、あそこ!お餅をついてんじゃん?」


 人だかりが凄くて見えない・・・・・・。


 「うわ、先着に入れるかな・・・・・・。」


 と、突然彼女が走り始めた。


 「ちょ、ちょっと渡辺さん?」


 「あ、待ってくださいッス!」


 彼女の高い背中を追っていくと、ぺったんぺったん、と何かで何かをつく音と、よいしょ、と男性の野太い声が大きくなっていった。


 「お、この人の数なら大丈夫そうだし。」


 と、彼女はそのまま人ごみの中をかき分けていった。


 「すいません、失礼します。しつ・・・・・・れいします。」


 んしょ、っと。


 はぁ、なんとか追いついた。

 

 「あっ・・・・・・。」


 そこでは餅つきが行われていた。


 杵を持った男性と、臼を手で押さえ時折水を手に付けて、中にあるである餅をひっくり返している男性がいる。


 臼の人は白いエプロンで、杵の人は赤いエプロンをしている。


 そこでぺったんぺったん、と一定のリズムで餅がつかれている。


 そういえば、こういうイベントって近所の神社ではしてなかったなぁ。


 その時、杵を持った男性が、お餅をつきたい人!とこちらを向いてくれた。


 「はい!はいはいはーい!」


 かと思ったら、渡辺さんが私の耳がキーンとする程の大きな声を出し、その手をめいっぱいに伸ばした。


 するとそれを見てか、というか目に留まったんだろうな。渡辺さん目立ってるし。


 その男性が金髪のあなた、と彼女を指さした。


 「へへ。行ってくるし!」


 と、私に手を振りながらその男性の方へ歩いて行った。


 そして何やら2,3言会話をしたかと思うと、その男性は彼女の手に杵を持たせた。


 ゆっくりと彼女が杵を振り上げ・・・・・・ぺったん、と餅とぶつかる音。


 さっきほど規則正しい音じゃなくていびつなリズム。


 でも、楽しそう。


 あ、写真取っておこうかな。


 スマホを取り出して、カメラは・・・・・・よし起動できた。


 あれ?なんで私の顔が映っているの?


 「ね、ねえ佐久間さん。」


 後ろにいた佐久間さんに携帯を見せる。


 「あ、はい。」


 「これ、カメラ変な感じなんだけど、どうすればいいの?」


 「あ・・・・・・えっと。あ、私写真撮るんで、後でLINEグループに送るッス!」


 「あ、ありがと。」


 

 「いやー、なんとかお餅貰えたし!」


 「うん。」


 「ッスね。」


 プラスティックパックの中には半透明のお餅、それにつまようじが刺さっている。


 「じゃ、硬くなる前に食べるし!」


 彼女の言葉に頷き、


 「「「いただきます。」」」


 パックを開け、つまようじ毎お餅を持ち上げる。


 この大きさなら、一口でいけちゃうな。


 でも、お餅って毎年、喉に詰まらせる人がいるって言うし、私がその人にならないように気をつけなきゃな。


 どんなに美味しくても、焦らず、しっかり噛もう。


 よし、行こうかな。


 「んむ。」


 むーっ。もちもちしてる。


 口の中でお餅がもちゅもちゅと音を立てている。


 なにより、つきたてだからか、ほんのり暖かい。


 ・・・・・・っと、危ない危ない。


 いつもの調子で飲み込んでしまうところだった。


 もっと噛んだ方がいいよね。


 「んむ。」


 ここの神社、すごく広いなぁ。それにすごい人。


 渡辺さんの言う通り、ご利益がすごいところなのかな。


 合格祈願ができるのなら、来年も来たいな。


 ・・・・・・よし、もういいかな。


 ん。よし、飲み込めた。


 美味しかった。


 「「「ごちそうさま。」」」


 「じゃ、お参りいこっか!」


 あっ、すっかり忘れていた。


 いつも何かを食べたらすぐに電車に乗っていたから、うっかり境内の出口に体が向いちゃってた。


 「う、うん。いこっか。」


 「はいッス!」



 賽銭箱の前にいた人が横にはけて、ついに私たちの番が来た。


 えっと、まずはお賽銭・・・・・・だっけ。


 えっと、100円玉100円玉・・・・・・あったあった。


 チャリン。


 ん。これでよし。


 「じゃ、鈴鳴らすし!」


 と、渡辺さんが賽銭箱の上にある鈴を鳴らしてくれた。


 2回深くお辞儀をして・・・・・・次は・・・・・・パンパン、か。


 んっと、最初に自分の住所を神様に言うんだっけ。


 ・・・・・・から来ました。上原真誉です。


 去年はお世話になりました。


 で、えっと・・・・・・お祈りか。


 どうしよう・・・・・・。


 こっそり、薄く目を開いて二人を見てみる。


 佐久間さんはジッと目を閉じてお祈りしている。


 ・・・・・・渡辺さん、左手の指を一本づつ折り曲げていってる。


 それ全部、お願いごとなのかな。


 あっ、それじゃあ・・・・・・。


 ・・・・・・二人のお願いが叶いますように、で。


 よし。


 「お、二人とも終わった?」


 「うん。」


 「はいッス。」


 「何お願いしたのー?」


 「え?んっと・・・・・・内緒で。」


 「わ、私も内緒にさせてくださいッス!」


 「えー?なんかつまんないし!」


 と、いつもの調子で彼女が八重歯を見せた。


 「ちなみにあたしは、美味しいものが食べれますようにと、お金が溜まりますようにと、ジャニーズのチケットを取れますようにと、あ、あとあの人のチケットも欲しいし!」


 うわ強欲・・・・・・だなぁ、渡辺さん。


 「す、すごいッスね先輩。」


 「うん。お願いをお願いできる数だけ詰め込んだし!」


 と、変わらない調子で八重歯を見せた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る