ケーキアソート at大晦日の大掃除

 「ありがとうね、二人とも。」


 「い、いえっ!上原先輩にはいつもお世話になってるッスから!」

 

 と、佐久間さんはテーブルを濡れ布巾で拭いており、


 「んだしー。それに、上原っちの家を実はじっくり見たかったし!」


 と、渡辺さんは部屋に掛かっているカーテンを外しながらそう言ってくれた。


 「でも、大晦日なのに・・・・・・二人とも用事とかって・・・・・・。」


 「あーないない!あるなら夜のテレビの特番を見るくらいだし!」


 「あ、わ、私もそのくらいッス。」


 「そ、そうなの?」


 確か・・・・・・7時くらいからだっけ、年末の特番って。


 このペースなら余裕を持って終わりそうかな。


 「で、あと掃除する部屋ってあと何個?」


 「えっと・・・・・・あと1つだね。」


 住み込みで働いている人の部屋は、今いる人を抜けば次で最後になるのかな。


 年末年始で帰るからせめてものお返しに、と毎年掃除を手伝いようにしているけれど・・・・・・。


 今残っているのは男性しかいないから、女性の使用人の人の部屋はなんとなく皆さん、掃除がし辛かったらしい。


 LINEで大掃除の話題になって、その事を話したら二人とも「手伝いたい」と言ってくれたけれど・・・・・・申し訳がないなぁ。


 でも、いつもなら持ってこなきゃいけない脚立も、渡辺さんの身長なら・・・・・・。


 「カーテン外し終わったしー!んじゃ、持っていく!」


 「うん。」


 ちょっとした足場さえあれば、上の留め具に易々と届いている。


 「あ、先輩。ゴミ箱近くに持っていきますッス。」


 「あ、ありがとう。」


 佐久間さんは、私がやろうとしたことをしてくれる。


 ・・・・・・すごく、助かる。


 この調子なら、2時くらいには一区切り付きそうかな。


 ひと段落付いたら・・・・・・うん。


 私が返せる事といったら、なんだろう。


 

 「あとはカーテンの洗濯を待つだけだし!」


 と、渡辺さんはゴウンゴウン、と回る4つの洗濯機を眺めている。


 「にしても・・・・・・やっぱすごいし。」


 「そ、そッスね・・・・・・。」


 「ん、どうしたの?」


 「いやその。洗濯機って普通1個だし。」


 「え・・・・・・そうなの?」


 「うん。」


 「そッスね、はい。」


 そうなんだ・・・・・・。


 用事があってこの部屋に来たときは、いつも二つ以上の洗濯機が回っているものだから、洗濯機は複数あるのが普通だと思っていた。


 洗濯が終わるまで1時間くらいか・・・・・・。


 ・・・・・・よし。


 「ねぇ、二人とも。コンビニ行かない?その、お礼がしたくて。」


 「えー?お礼ー?いいしー、そんなの~。」


 と、渡辺さんが嬉しそうに八重歯を見せ、頭の後ろを掻いている。


 「あ、そ、その。えっと・・・・・・ありがとッス。」


 と、佐久間さんはいつもよりも深く頭を下げた。


 よし、二人とも賛成してくれた。


 「あ、そこの方、いい?」


 と、傍を通りがかった使用人の人を呼んだ。


 「この後30分後に3人で紅茶を飲みたいから、お願いしてもいいですか?」


 あ、二人は普段何を飲むんだろう。


 「紅茶の種類で、二人が普段飲んでるのってある?」


 「あ、うーん・・・・・・上原っちと同じので!」


 「は、はい!私も同じくッス!」


 あれ・・・・・・もしかしてあまり二人は紅茶を飲まないのかな。


 なら、いつも飲んでるのは濃い目だし、蒸らす時間は少なめにして薄めにした方がいいかな。


 「じゃあ・・・・・・フォートナムいつものを3人分、薄めでお願いします。」


 そして、使用人の人が厨房の方へと消えていった。


 「なんか・・・・・・お嬢様って感じだし。」


 「ッスね・・・・・・。」


 「そ、そう?」


 お嬢様かぁ・・・・・・子供の頃からこういう生活だから、なんだか変な感じがしてしまう。



 ピロピロピロリン


 「今日は私が払うね。」


 「マ?んじゃ、ゴチになんねー。」


 「あ、ありがとッス。」


 傍にあったカゴを一つ取り、腕に通した。


 さて、何にしようかな。


 せっかく紅茶を飲むのだから、それに相応しいお茶請けにしたい。


 あの銘柄の紅茶なら、余程のものじゃなかったら大抵何でも合うけれど・・・・・・。


 「二人とも、何か食べたいのってある?」


 「ん?んー・・・・・・上原っちに任せるし!」


 「あ、私も、特に無いッス。」


 「そ、そうなの?」


 うぅん・・・・・・迷うなぁ。


 チョコも、クッキーも、ポテトチップスも・・・・・・は、無いかな。


 こうしてじっくりみてみると、全部が紅茶に合うように思えてくる。


 ・・・・・・ん?


 これって・・・・・・。


 「お、ケーキ?こんなのあったんだ。」


 「なんか、すごく合いそうっすね、紅茶と。」


 ケーキアソート。


 パッケージを見る限り、4種類の小さなケーキが入ってるらしい。


 んっと・・・・・・チョコケーキやマドレーヌなんかが入ってるんだ、これ。


 ケーキかぁ。


 きっと、紅茶とすごく合うんだろうな。


 「これ、どうかな?」


 「ん。賛成ー。」


 「あ、私も賛成ッス。」


 それからそれをカゴの中に入れ、そのままレジへと向かった。


 

 「はい。どうぞ。」


 コンコン、と扉をノックする音が聞こえたのでそう言うと扉が開き、使用人の人がカラカラとキッチンワゴンをテーブルの傍まで運んできてくれた。


 その上には、口から湯気を出すポッドと3人分のティーカップが載っている。


 「お茶は私が注ぎます。持ってきてくれてありがとうございます。」


 と言うと使用人の人は深々と頭を下げてから、部屋を退出していった。


 二人と私の前にソーサー、カップを置き、ポッドを持って中の紅茶を注ぐ。


 ・・・・・・ん。薄めの色。


 私には最後に注ごうかな。


 次に、佐久間さんに・・・・・・。


 よし、最後は・・・・・・。


 そういえば、二人とも全然話さないな。


 渡辺さんが、彼女らしからぬ神妙な面持ちでカップを見つめている。


 佐久間さんは・・・・・・同じようにカップを見つめている。


 「二人とも、どうしたの?」


 「な、なんかさ・・・・・・あたし、マナーとか知らないしさ。緊張しちゃって。」


 「あ・・・・・・は、はい。」


 う・・・・・・お茶は使用人の人に注いでもらった方が良かったかな。


 「ごめん、気を使わせちゃって。」


 ポッドをワゴンに戻し、テーブルの中央に置いていた、さっき買ってきたものの口を開いた。  

 

 あ、これじゃあ取りづらいな。


 背中から・・・・・・よし、これで大丈夫かな。


 「マナーはあるけど・・・・・・その、二人にはそういうの感じて欲しくない、というか。」


 やっぱり、いつも駅で食べているときみたいにしてほしいし。

 

 「やっぱあたしらしくなかったー?じゃ、そうするし!」


 「が、頑張ってみますッス。」


 あ、二人の肩が下がった。


 「じゃあ、食べよっか。」


 二人が頷き、


 「「「いただきます。」」」


 うぅん、4種類もあると迷うなぁ。


 最初は・・・・・・この筒状のから行こうかな。


 白いクリームでコーティングされていて、雪に染まった枝みたい。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 あ、すごくしっとりとしたスポンジ生地だ。


 この白いのは・・・・・・ホワイトチョコだったのかぁ。


 そして、紅茶を・・・・・・。


 「んく。」


 ん・・・・・・美味しい。


 いつもより薄めにお願いしたけれど、これでも十分に風味や匂いを感じることができる。


 じゃあ、次は・・・・・・よし、白つながりでこれにしよう。


 チョコパームっていうんだっけ。


 白いサイコロみたいな見た目をしている。


 上と下に白の板が張られていて・・・・・・わ、触るとツルツルしてる。


 「んむ。」


 あ、パリパリしてる、上と下の板のところ。


 さっきと全然食感が違う。


 「んく。」


 よし、次は・・・・・・。


 うぅん・・・・・・チョコケーキかマドレーヌかぁ。


 まだまだどっち量はあるけれど、やっぱり悩んじゃうなぁ。


 マドレーヌはきつね色の生地と、貝殻みたいな焼き模様がかわいいし、チョコケーキは一口サイズだからパクリと一口で食べちゃえそうだからすごく我儘な味がしそう。


 ・・・・・・よし、チョコは後に取っておこう。


 マドレーヌは・・・・・・あ、袋を開けたらバターの匂いがふわって鼻に・・・・・・。

 

 「んむ。」


 ん・・・・・・食べた二つとはまた違う食感。


 少し硬めのスポンジ生地だから、噛む回数が増えて、その度にバターの味が染み出してくる。


 あ、唇がバターでちょっと滑る。


 紅茶を少々・・・・・・。


 「んく。」


 よし、口の中をリセットできた。


 じゃあ、チョコケーキ・・・・・・いこうかな。


 お・・・・・・遠くで見てたからわからなかったけれど、近くで見たら全部の面がチョコでコーティングされているんだ。


 中で層になっているであろう生地が見えない。


 それに、触っているとカチカチしている。


 噛み心地、気になるなぁ。


 「んむ。」


 お、これスポンジ生地の間に生クリームの層があるんだ。


 チョコ特有の口の中に残る、ねっとりとした味と相まって、すごく濃厚だね。


 「んく。」


 おいしい。

 

 「ねえねえ、二人とも。今日の23:30くらいからさ、スカイプしない?」


 「あ、いいッスねソレ、賛成ッス。」


 「すかいぷ?それってどんなの?」


 「んっと、複数人で同時に通話できるってヤツだし!んで、一緒に新年迎えたいし!」


 「あ、それいいね。でも、どうすれば・・・・・・。」


 「先輩、私が教えるッス。」


 「あ、うん。助かるよ。」


 「でさ、やっぱ年越しそばだし?なんか買っておくし!」


 と、袋の中の最後のケーキを手に取って口に入れ、2倍の時間をかけて堪能して飲み込み、残りわずかとなった紅茶で喉を潤した。


 「「「ごちそうさま。」」」


 携帯を取り出して時間を見ると、洗濯機から離れてから大体50分が経とうとしていた。


 「もうそろそろで洗濯終わるだろうし、いこっか。」


 「りょ!」


 「はいッス。」

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