いちご牛乳プリン atテスト結果

 「上原っち、数学何点だった?」


 と、渡辺さんが手に持っていた答案用紙を見せてきて、


 「見て!73点!」

 

 シシ、と八重歯を見せた。


 今回の数学の平均点は60点くらいだと先生は言っていたから・・・・・・。


 「あたし、数学の平均点を上げちゃった、みたいな?」


 と、再び八重歯を見せて笑った。


 あ、太めの赤字で「次は気を付けるように」って書いてある。


 「で、で。上原っちは何点だった?」


 「あ、うん。今出すね。」


 んっと、確か青のファイルに・・・・・・あったあった。


 「98点だね。」


 「ぐっ。やっぱすごいし、上原っち。」


 と、苦笑いを浮かべている。


 「そ、そうかな?」


 「あっ!じゃあじゃあ、英語はどうだった?」


 「え、英語?」


 「あたし90点!いえーい!」


 「82点だったかな?」


 「ぐぐっ。」


 と、再び苦笑いを浮かべている。


 「でも、渡辺さんがいなかったら、英語は赤点だったかも。」


 「マ?上原っち、確かに英語苦手な感じはしたけどさ、そんなに?」


 「う、うん。渡辺さんのお陰だよ。」


 「えー?そう?」


 と、一転して嬉しそうな顔になって、頭を掻いている。


 「そ、その。ちっちゃかったし!あたし。」


 「え?どうしたの?」


 ガリガリと強めに頭を掻いてる・・・・・・。


 「いや、その・・・・・・なんていうか。過去最高得点だったからさ。もしかしたらー、なんて思って。」


 最高得点かぁ・・・・・・今回、先生曰く難しいところが多かったのに、一番高い点数だったなんて。


 「すごいね。おめでとう、渡辺さん。」


 「あ、う、うん。ありがとだし。」


 なんだか、渡辺さんらしくない反応。


 いつもならスッキリとした笑顔でシシ、と笑うと思ったのだけど。


 「なんかさー、あたし。ちっちゃい人間だなーって。」


 「ん・・・・・・?でも、モデルさんみたいに背高いよ、渡辺さん。」


 「あ、ありー、上原っち。」


 わわ、いまだかつてない速さで頭を掻いてる・・・・・・。


 髪、痛んじゃわないかな。


 

 ピロピロピロリン


 「今日は私の番ッスね。」


 「ゴチになるねー。」


 「ん。ありがとう。」


 佐久間さんがそこにあるカゴを一つ取り、持ち手を腕に通す。


 「あっ、さくさくー。テストどうだった?」


 「あ、はい。赤点は無かったッス。」


 「いいじゃんいいじゃん!良かったし!」


 「は、はい。ありがとッス。」


 「ちなみに・・・・・・数学、何点だった?あたし73点!すごない?」


 「んと、確か・・・・・・76点でしたっけ。」


 「ぐぐ・・・・・・っ。それマ?」


 「マ、ッス。」


 「マ、かぁ・・・・・・。」


 と、苦笑いをしてる。


 「渡辺さん、そんなに最高得点が取れて嬉しかったの?」


 「だ、だって最高得点だしっ!あと、平均点が10点も低いなんて初めてでさー。」


 「あ、えっと、えっと・・・・・・やっぱり70点だったような気がするッス。」


 「う・・・・・・なんかごめん。」


 私たちの先を歩く、コツコツ、と音を立てていた足音が止まる。


 んと・・・・・・紙パックとかアイスコーヒーが並んでいるコーナー?


 「あっ。」


 すると彼女の手が伸びて、そこから一つを手に取った。


 「これ、かわいいッスね。」


 「実はあたしも気になってたし。ピンクなのもかわいいし!」


 イチゴ牛乳プリンかぁ。


 一面の薄いピンク色と、イチゴの絵と、真ん中に可愛い太陽みたいな顔が描かれている。

 

 側面には袋に入ったストローが付いている。


 そういえば、「イチゴ牛乳」という名前の飲み物は今はほとんど無いんだっけ。

 代わりにイチゴミルクとか、イチゴ・オ・レはあるけれど。

 なんでも、2000年に集団食中毒が起きて、それから「牛乳」と漢字を使うには生乳100パーセントじゃないとダメ、となったらしい。

 

 と、いう事は・・・・・・すごく、牛乳の味がしそうだな、これ。


 「うん。私もそれが飲みたいな。」


 すると、佐久間さんは手に持ったそれをカゴに入れ、さらに2つを手に取りカゴへ追加し、レジへと向かっていった。



 「「「いただきます。」」」


 ストローを取り外し・・・・・・お、上の方を押したら、下の尖った部分から出てくるのかぁ。


 こう、かな。


 おっ、簡単。


 ついでに、長くして・・・・・・っと。


 よし。準備完了。


 差し込み口は・・・・・・あっ、ストロー口がある。


 こういうのありがたいなぁ。迷わないでブスっといけるよ。


 んっ・・・・・・んんんっ・・・・・・っ!


 あ、あれ?もう一枚蓋がある?


 上のピンク色の蓋を開けてみると・・・・・・あっ。


 これ剥がさなきゃなんだ。


 ペリ、ともう一枚剥がして、と。


 お、ピンクだ。


 プリンって名前で身構えていたから、思いのほかサラサラしているかも。


 よし、さっきの蓋を嵌めて、と。


 このままでもいいけど、折角ストロー口があるんだからそれを使いたいしね。


 ん。これでよし。


 そして、ストロー・・・・・・よし。


 するするする。底に到着したかな。


 よし。いこうかな。


 「んむ。」


 おっ・・・・・・イチゴだ。鼻から抜ける香りがイチゴだ。


 あっ、それから牛乳の舌触り。


 水とは違う、ねっとりとした重さと、牛乳のクリーミーなさらさら。


 これどのくらい入ってるんだろう。


 うぅん・・・・・・240mlかぁ。


 一気飲みしたい。ゴクゴクいっちゃいたい。


 い、いやいや。我慢我慢。


 もっと長く楽しみたいし。


 ・・・・・・で、でも。口いっぱいに頬張るくらいなら。


 いい、かな。


 よ、よぅし。


 「んむ。」


 わわ、ここまで口に注ぐと、イチゴの酸っぱさを感じる。


 口から吐く息も、イチゴの匂いがする。


 美味しい。


 「冬休みどうするー?」


 「あ、どうしましょう。スキーですよね?」


 「そそ。やっぱ、スキー場でスキーとかウェアとか借りられるとこがいい感じだし?」


 「あ、そうッスね。レンタルかぁ。」


 「私も探しておくよ。」


 「ありー。」

 

 そうして、いつの間にかゴクゴクしてしまった事に気が付き、ズズズズ、とストローが底を叩いていた。


 くるくるとストローを回して・・・・・・う、終わりかぁ。


 「「「ごちそうさま」」」


 その時、いつものアナウンスが鳴った。


 「それじゃあ、帰りましょう先輩方。」

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